海(カイ)ははっと我に返ったような顔をした。
「菖蒲ちゃん? どうしたの?」
そう首を傾げた。
「どうしたって、別に、」
何もない、と続けようとしたが声が出なかった。わたしは口を噤む。
「大丈夫?」
わたしの眼を覗き込んでくる。彼の瞳が、心配するように見返してくることが不思議だった。
「水藍(スイラン)は、」
言葉が続かない。
言いたいことがあるのに言葉が出ない、浮かばない。だから声も出ない。
わたしは口を開いたり閉じたりと繰り返すだけ。
伝えようと、伝えたいと気持ちだけが焦るからますます言葉が浮かばない。
そんなわたしの気配を察したのか、海はいつもの軽い調子に戻る。
「誰にも会わせないなら、閉じ込めなくちゃ」
肩を竦める。
「これから先、否、これまでも。水藍は俺の知らない誰かにたくさん出会っているし、出会っていくだろうね」
仕方ない、と苦笑い。
「誰にも会わせたくないなら、閉じ込めて、俺だけ見るようにすれば良い」
彼は「でもさ、」と続ける。
「俺はそういうの嫌だよ」
微笑を浮かべている。
「俺が、水藍の世界を狭くすることはできない」
きっぱりと言い切る。