八須(ハチス)は扉に視線を投げた。
「何です?」
釣られてわたしも視線を向けた。
「そろそろお迎えが来そうですよ」
彼と扉を交互に見る。彼はただ微笑むだけ。
わたしは扉を見つめる。
扉の先、廊下の奥。階段を降りてくる。
走らないよう気を遣いながら。それでも急いでいるから、歩幅はいつもより大きいかもしれない。それとも音を立てないよう気をつけながら小走りかしら。
わたしはまた八須を見た。
わたしは彼に、どんな顔を向けているのだろう。
情けない顔、とは判る。心細いような、不安のような、隠れてしまいたいような気さえしているから。
だけど彼は微笑んで、ひとつ頷くだけ。
たぶん彼は、わたしがどんな顔をしていても。同じように微笑むだけだろう。
彼は変わらないだろうと思えたら、わたしの心は静かになっていった。
彼が変わらないことは、わたしを安心させた。実際の彼の反応を見たわけでもないのに。彼に、聞いたわけでもないのに。