やりとり算の工夫 | 受験算数はきょうもおもしろい

以前の記事に関連するテーマです。

 

やりとり算(分配算)とよばれるものがあります。文字通り、やりとりしたり、分配したりする文章題のことで、量と割合の関係を問題文から正しく読み解く力があるかを問う問題が中心となります。

たとえば次のような問題です。

 

水の入った2つの容器A、Bがあります。以下のように、交互に水を移し替えていく操作を順々に行いました。
 操作① 容器Aの水の½を容器Bに入れる。
 操作② 容器Aの水の⅓を容器Aに入れる。
 操作③ 容器Aの水の¼を容器Bに入れる。
 操作④ 容器Aの水の⅕を容器Aに入れる。 
 操作⑤ 容器Aの水の⅙を容器Bに入れる。
 操作⑥ 容器Aの水の⅐を容器Aに入れる。
 操作⑦ 容器Aの水の⅛を容器Bに入れる。
はじめは容器Aには容器Bより840㎤多く水が入っていました。その後 操作⑤が終了したとき、容器Bには容器Aより560㎤多く水が入っていました。このとき、次の問いに答えなさい。
⑴ はじめに容器Aには何㎤の水が入っていましたか。
⑵ 操作⑦が終了したとき容器Aには何㎤の水が入っていますか。            (世田谷学園2021)

 

82 世田谷学園中学校 2023年度用 3年間スーパー過去問 (声教の中学過去問シリーズ)

 

一読しただけではほぼ理解不能であり、正答率わずか10%台(小問⑴が19.0%、小問⑵が11.4%。学校発表)というのもうなずけるところです。採点者も「操作はシンプルだが計算は煩雑であり、正答率は低くなった。」とコメントされていますが、計算が煩雑にならないように途中をいかに工夫するかが攻略のポイントとなります。

基本は、食塩水のやりとり問題で使ったようなやりとり図を書いて状況をきちんと整理することになります。

 

右矢印 やりとり図を書いてみる。

小問⑴は「操作⑤が終了したとき」を問題にしているので、操作⑤までに出てくる分数(½、⅓、¼、⅕、⅙)の分母の最小公倍数60より(過去記事)最初にBに入っていた水の量をとおく。このとき「はじめは容器Aには容器Bより840㎤多く水が入って」いたので、Aに入っていた水の量は+840で表せる。

ただ、この形のままやりとり図にすると、割合と実際の量とが入り混じってごちゃごちゃしそうなので、数字の部分割合の部分(定数と変数)に分けてやりとり図を考えてみる。

 

数字の部分だけ取り出したやりとり図

①から⑤の操作に対応する×½から×⅙をそれぞれ計算すると次のとおり。

ここからわかるのは「操作⑤が終了したとき」はどちらも420㎤となり、数字の部分ではAB間に差はつかない

 

割合の部分だけ取り出したやりとり図

同じように割合の部分だけを取り出してやりとり図にすると次のとおり。

 

ここで問題を見ていくと、

 

⑴ はじめに容器Aには何㎤の水が入っていましたか。

 

割合のやりとり図でわかるように「操作⑤が終了したとき」にはの差がついている。「操作⑤が終了したとき、容器Bには容器Aより560㎤多く水が入って」いたのだから =560。

よって、はじめに容器Aに入っていたのは +840=2520㎤

 

 

⑵ 操作⑦が終了したとき容器Aには何㎤の水が入っていますか。

 

小問⑴で使ったやりとり図を最後まで完成させてみる。

 

数字のやりとり図

ここで気づくのは、操作①以外はただの「行って来い」になっている*こと(できれば小問⑴で気づきたい)。つまり操作①による移動だけを考えればよい。

 

割合のやりとり図

つづいて割合部分も完成させると、こちらは操作⑦以外はやはり「行って来い」になっている。したがって操作⑦による移動だけを考えればよい。

 

 

以上より、はじめに容器Aには2520㎤入っていたので「操作⑦が終了したとき」には、=560より、

 2520-420-=2100-560÷20×7.5=1890㎤

 

 
*不思議なようでよくよく考えると当たり前の話。つまり、2人が同じ量を持っているときに(ここがポイント)自分が持っている量の½を相手にわたすと、あとで同じ量を返してもらうには相手の持っている量の⅓をもらうことになるし、自分が持っている⅕をわたしたあとで同じ量を返してもらうときは相手の持っている⅙をもらうこととなります。割合のトリックですが、これと似た例に「2割増しで定価をつけた商品を2割引きで売ると損が出てしまう」というものがあります。