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観光計画はぐっちゃぐちゃ?

オアハカといえば、観光資源たっぷりの街である。


・世界遺産に指定された、壮麗なサント・ドミンゴ教会。
・奇観・石でできた滝、イエルベ・エル・アグア。
・樹齢2000年の木、エル・トゥーレ。
・古代サポテカ人の遺した、モンテ・アルバン遺跡、ミトラ遺跡、ヤグール遺跡。


ほかにも、市場見物、マリアッチ鑑賞、手工芸見学など、観光にはもってこいの街なのである。

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なかでも僕が楽しみにしていたのは、イエルベ・エル・アグア。
ミネラルを多量に含んだ湧き水が何千年もかけて創り上げた、壮大な自然のオブジェ。写真を見ただけでも、石の滝がなにか音楽を奏でているのがわかる。その音が聴きたい。

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宇宙だって、本当はいつだって音楽を奏でている。その音が聞こえるように心をチューニングすれば、音楽はオゾン層を超えて心に響いてくる。大気だって、音楽を鳴らしている。写真の中のイエルベ・エル・アグアは、そんな大気の音楽にとけ込むような繊細な音を奏でているように見えた。イエルベ・エル・アグアに行きたいがために、オアハカで一日を過ごせるようにスケジュールを組んだのだ。



コンシェルジェのおニイさんに「イエルベ・エル・アグアまではどう行ったらいいんですか?」と、ニコニコして尋ねる。
するとおニイさん、オフクロさんを亡くした人にでも向けるような同情の表情を浮かべ、「イエルベ・エル・アグアまでは、いまは道路の状況が悪くて行けなくなっているんです。」と告げた。


なにぃぃぃッ!?


じゃ、何のためにオアハカ観光にスケジュールを割いた(フチタンで過ごす日数を1日減らして)んだよッ。
「タクシーでも行けないですか?」声が震えそうになるのを押し隠しながら、そう尋ねてみた。
「道路自体が封鎖されているので、行けません。大変残念です。」と、おニイさん。

くううぅッ!

口惜しさのあまり、コンシェルジェのおニイさんにセクハラでもかましてやりたくなったが、おニイさんが悪いわけではない。ああ、やりきれない!行き場のない憤懣で、胸が張り裂けそう。

ショックな出来事は、いつも自分の知らない間に、自分の手の届かないところで進行しているものだなぁと思う。
僕が東京でフツーに仕事をしたり食べたり寝たりしている間に、広い世界の中の遠い遠い田舎町の道路のひとつがだめになり、そんな世界の動きから見れば微々たる出来事が今日、無邪気にやって来た僕にこんなにも激しい動揺を与え、行き先の変更を余儀なくしている。
ショックな出来事というのはいつも、自分の把握しきれないところで、取り返しがつかないところまで進行している。気がついたときには、とても抗えない「コトの流れに」呑み込まれていくしかなくなっているのだ。人は自由に生きているようでも、とてもじゃないけど抗えないものが沢山ある中で、じたばたと懸命に生きていくしかない。


しかし、このオニイサンはタダ者ではなかった。
メキシカンの黒く澄んだ瞳でじっと僕の目をのぞき込みながら、子供をあやすような笑顔で「サント・ドミンゴ教会は、もう見ましたか?とてもキレイですよ。ここから歩いて5分ほどです。」と、甘い声でスポットを案内してくれる。「ソカロ(街の中心地である広場)も、にぎやかで楽しいです。モンテアルバン遺跡までは、近くからバスが出ていますよ。」
ああ、甘い雰囲気。
しかも、なんてアニキっぽい身のこなし。

カッコいい。。。
メキシコの男たちって、そんなワザを、どこで身につけるの。。。

「わかりました、ありがとう」思わず、あま~い声を返してしまうワタクシでありました(今の今までイライラのかたまりだったくせに)。くっそ~、ひみつのアッコちゃんのコンパクトがあったら、オンナに変身して逆ナンしてやるのによぉ(鏡の精から怒られまんがな)。


取り返しがつかない以上、気持は早く切り替えた方がトクである。
とりあえず可能なものでMAX楽しまなければ、損をするのは自分だ。
モンテ・アルバン遺跡に行くことも可能だったが、ピラミデ(ピラミッド)はティオティワカンでも見たし、オアハカ市内をゆっくり見物することにした。


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町のいたるところに物乞い女がいる。必ず子供を連れているところが、うそっぽい。


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みやげ物はみんなカワイイが、割れ物ばっかり。買えまへんがな。


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死者を身近にとらえるオアハカでは、ガイコツはスヌーピーのようなキャラクター。でも、太陽と組み合わせちゃうのはスゴい。


まずは、カミノ・レアルから近いサント・ドミンゴ教会へ向かうワタクシ。
15世紀頃にこの地を征服したスペイン人がネイティヴ・アメリカンの人々をキリスト教に改宗させるために100年もの歳月をかけて建築した、メキシコ・バロック建築の最高峰であるサント・ドミンゴ教会は、オアハカ観光の一番の呼びものである。とにかく、内装に金箔や宝石がふんだんに使われ、天井には一面『生命の樹』が芸術家たちの手作業によって彫り込まれているという。オアハカを訪ねる人が、必ず一度は来るスポットである。教会前の広場では、子供たちがサッカーをしていた。教会をスケッチする若者たちも。


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サント・ドミンゴ教会は、とにかくでかい。こんなにでかい教会の内装を金銀宝石でピカピカにしてあるなんて、いったい幾ら金がかかるんだろう。それだけすごい金銀財宝を、スペイン人はネイティヴ・アメリカンから略奪して造ったのだ。
そういうことが当時のスペイン人からしてみたら「正しいこと」として行われちゃうんだから、宗教ってコワイ。教育って、すごい。その人のアイデンティティを丸ごと支えるものに、人は簡単にはさからえないのだ。


期待に胸を弾ませて、教会の入り口に向かうと、なんと。。。。。閉まっているぢゃありませんか。
なんで!なんで!教会って、いつでも開いているもんなんじゃないのッ!!入れないなんて、あまりにショックじゃん!
入り口に、銃を持った警備のオニイサンが立っていたので、「Is it close(あいてないの)?」と尋ねてみると、全く英語が通じない様子。ブチ切れそうなほどイライラしたが、オニイサンに罪はない。

仕方なく「指さし会話帳」をパラパラめくり、「閉まっているのか」と訊いた。
コクン、コクンと頷くオニイサン。
「明日は開いていますか?」と訊くと、「明日も閉まっている」とのこと。
「アンタ、そりゃねーだろ。こっちは金も時間もかけて、世界地図のはじっこの日本から来てんだぜ。えっ、ニイちゃんよォッ!飛行機のせまいシートにデブな体を押し込めて耐えること20時間、どんな思いでここまでやって来たと思ってんだぃ(けっこうオキラクに来たくせに)!」と絡んでやりたくなってしまったが、撃ち殺されたらいやなので「グラッシャス(ありがとう)」と呟いて、門に背を向けた。


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教会のスケッチをしていた高校生。


なんてことだろう。。。。じゃ、楽しみにしてたもの、ほぼ全滅なんぢゃん。。。。。
さすがに、すぐには立ち直れない。フラフラと、あてどもなく歩き出すワタクシでありました。

こ、ここは・・・ハッテン公園?

石畳の道をトボトボ歩いているうちに、街の中心地であるソカロ(広場)までやってきた。

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ド肝を抜かれるようなデカイ樹がたくさん生えていて、ソカロをすっぽり覆っているカンジ。これだけデカイ樹がこんなに生きているからには、この乾燥した高原都市には豊かな地下水脈があるはずである。帰国してから調べてみたら、太古、オアハカの街は湖底だったのだそうだ。ソカロの樹木たちの魂は頑固じじいのように排他的で、そばによると「あっちへ行け」と言ってくる。


思うように観光ができず、ストレス充満中のワタクシ。自分はストレスがたまるとドカ食いしてしまうという、自虐的なクセがある。とりあえず、ルビーのように赤いグレープフルーツを屋台で買って、むしゃむしゃと食う。うまいッ!走り出しそうに、うまいッ!
ソカロ周辺にひしめきあうオープンカフェのひとつに入り、カプチーノを飲むと、これもまためちゃくちゃウマイ!なんなのだろう、牛乳が全然違うかんじ。コクがあるのに、サラサラしているのだ。チーズケーキ(でかい)は砂糖と卵がドバドバ入っていて、ひとくち食べたときには「ん、カスタード・ケーキ?」と思えたほどだったが、これはこれでウマかった。

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おいしいものを食べて気を取り直し、ソカロを散策していると、いろいろな人が微笑みかけてくれる。「オラ(やぁ)!」と、声をかけてくれる人も多い。みんな、なんて人なつこいのだろう。
「ハポネサ(日本人)!」と笑顔で手を振ってくれる人もいるし、「コニチーワ!」「アリガート!」と知っている日本語で呼びかけてくれる人も。


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ソカロには大道芸人がいっぱいいて、退屈しません。


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女子高生も人なつこいの。


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ノリのイイ若者グループ。僕のことを見かけるたびに「ウターッ!」と叫んで駆け寄ってくれました。


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このおニイちゃん、オトコっぽくて可愛かった~。



中国語圏の人がここを訪れたら、「ニーハオ!」と言ってもらえるのだろうか。
韓国の人だったら、「アンニョハセヨ!」と声をかけられるのだろうか。
日本人である僕はアメリカでもタイでもアジアの国々でも、「コンニチワ」と言ってもらえた。香港で生まれ育った友人は、外国で「ニーハオ」と声をかけてもらったことはないと言っていた。なんだかんだ言って、日本人てオトクなんだろうか。


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記念撮影中の若者たちに「入れてー」と言って、走りよって撮ったら



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こ~んなことしてやんの!ちきしょう、ばかにすんじゃないよッ。


愛想をふりまきつつ(お調子者日本一)歩いていたら、僕のゲイ・アンテナがピピピと鳴るようなゲイっぽい青年を発見。一見なにをするでもなくベンチでたたずむ普通の青年(ハンサム!)なのだが、よく見ると自意識の張りめぐらせ方が、たまらなくゲイっぽい。チラチラ見ていたら、気がついてニコっと微笑んでくれたので話しかけてみる。

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彼はロベルト君という名前で、24歳。英語が全然通じないので、指さし会話帳とジェスチャーとお絵描きで、なんとか会話する。彼はプエブラ州の出身だが、仕事の関係でオアハカに住んでいると言った。

写真を撮ってプリントアウトし、「グアポ(いいオトコ)!」と言って渡すと、ネットリとした視線で「あなたもだよ」と言って僕の前髪にさわった。あんたゲイでしょ、間違いなくゲイだ(むこうもそう思っていると思うが)!

メキシコシティのゲイバーのフライヤーやフリーペーパーなどをあげて(これがモロ出しなんです)、反応を見てみる。ちょっとドキドキしたのだが、やっぱり食いついてくれた。
「もらっていいの?」と、ロベルト君。
「シ(はい)!」と返事をして、メキシコシティのゲイバーで撮った写真を見せる。
「この店には、行ったことがあるよ。ソナ・ロッサだよね。」と、ロベルト君は嬉しそうに言った。


オアハカの人々にとってソカロは憩いの場であり、子供の頃からの遊び場であり、お祭り広場であり、デートスポットであるが、オアハカに住むゲイたちにとってはソカロは大事なハント・スポットでもあるとのこと。
(文章で書くとスラスラ会話を交わしているみたいだけど、意思を通わせるのは大変でした)
そうか、ここにいればゲイたちと会えるワケか!

「オアハカには、ゲイバーはあるの?」と聞くと、「トレ(3軒ある)」と答えるロベルト君。「でも僕は、行かない。きらい。」と、指さし会話帳とジェスチュアで示す。
「どうして?」と尋ねると、ロベルト君は指さし会話帳を一生懸命めくったが、適当なコトバが見つからずに、「きらい」というコトバを再び指さした。なぜゲイバーがキライなのか聞いてみたかったが、コトバの壁は厚く、断念する。

「オアハカに何日いるの?」とロベルト君から聞かれ、「明日はフチタンという町に行く」と答えると、ロベルト君は指さし会話帳をひらいて「私」「仕事」「夜」「今日」と指した。ありゃま、デートにでも誘ってくれるつもりだったのかも。う~ん、残念。「また会いましょう」という挨拶の言葉を指さして、ロベルト君と別れた。


しばらく歩き回っていると、こちらをニコニコして眺めている青年に気づいた。微笑み返すと、肩の高さまで手をあげ、ウィンクしてくれる。こ、こりゃ、あんた、ゲイでんがな。やっぱ、ここはハッテンバなんじゃん。

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彼は、日本にとても興味があるのだと伝えてきた。リッキー・マーティンの歌を歌って笑いとる戦略を試みてみると、ここまで笑うかというぐらい笑ってくれた。だが、やはり言葉が通じずに、うまくコミュニケーションがとれない。やっぱり、ぜんぜん英語が通じないような場所に一人で来るなんて、無謀だったのかも。。。。



観光も思うようにできないし、コミュニケーションもなかなかムズカシイ。次第に心細くなってきたワタクシ。一休みしたカフェでアメリカ人とおぼしきご婦人ふたり連れを見かけると、英語が話したくて話したくてたまらなくなり、ゴージャス折り鶴を手に話しかけてしまう。



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あなたがた、TV通販の番組に出演してるでしょ!その顔は、出てる顔だよッ!


「ワーオ、オリガーミ!なんて、きれいなのッ!」
「あなたが作ったの?」
「あなたが作ったのよね、そのテーブルで作っていたのを、ワタシ見てたもの。」

予想以上にテンションの高い反応を示してくださる、ご婦人方。聞いてないことまで、ガーッと喋ってくださる。

「あなたは、お仕事でメキシコに?」
「わたしたちは、毎年一緒に旅行しているの。去年はハワイに行ったわ。」
「あら、コスメティックの会社で働いているの?すてき!シセ○ド○?もちろん知っているわよ。」
「私の娘は、仕事で日本に5回行ったことがあるのよ。」
「私は5年前にトーキョーとキョートに行ったわ。親切な人が多くて、とってもラッキーな旅だったわよ。」
「ジャパニーズ・フードも、たくさん食べたわ。アメリカで食べるのと違うわね。」
「また日本に行きたいわ。」
「ワタシも。」


サント・ドミンゴ教会に行ってみたが閉まっていて入れなかったことを話すと、
「あら、私たち今日、中に入ったわよ」という、ご婦人。


なんだと!


「もう一度ゼッタイ行ってみるべきよ。」
婦人方の言葉に背中を押されカフェをあとにしたが、サント・ドミンゴ教会の入り口にいた警備のニイチャンは、「今日も明日も閉まっている」と言っていた。本当に中に入れるのだろうか。

謎の日本人女性・裏ちん子様との出会い

サント・ドミンゴ教会に入れなかったことを話した僕に「私たちは入れたわよ、もう一度行ってみるべきよ!」と言ってくれたアメリカのご婦人方の言葉に背中を押され、教会に戻ってはみたが、やはり入り口は閉まっている。


銃を持った警備のニイチャンに「また来たか!」というような顔をされ、しおしおと気持がしぼんだ。
未練たらしく教会前の広場を歩き回っていると、一人で石段に座って手紙みたいなものを書いている小柄な日本人の女の子を発見した。手元を見ると、「地球の歩き方」と「指さし会話帳」という、自分とまったく同じセットを持っている。まちがいなく、日本人である。
「すいませーん」と声をかけると、ハッとしたように顔を上げる彼女。
「この教会、閉まってるんですかねぇ」と、色気も素っ気もない(ナンパと間違われないように)声で尋ねてみた。
「アタシ、午前中ですけど、入りましたよ」
ううう、午前中なら入れたんだ!
ってことは、明日も午前中なら入れるということか。

関西訛りで、こんどは彼女の方から尋ねてきた。
「あの、お一人で来てはるんですか?」
「一人です。自分は、インターネットでこういうサイトに記事を書いている者なんですが」と、『同性愛』とバッチリ書かれたAll Aboutの名刺を差し出すワタクシ。これで、ナンパの意思がないことがわかってもらえると思ったからだ。名刺を見ると、うれしそうにニマァ~っと笑う彼女(まぁ、いまどきの女の子の一般的な反応であるが)。

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「歌川さんておっしゃるんですか、ほたら、歌川さんも同性愛なん?」
「もちろん」
彼女は、すっかり警戒心を解いた表情になった。うち解けて、ちょっと話しこむ二人。
なんでも彼女は北・南アメリカ大陸縦断の超貧乏一人旅を決行中なのだそうだ。
ありゃま、負けたよ。


彼女は先週まではメキシコ・シティにいたそうで、メキシコ・シティで発見したイケメン君たちの話で盛り上がる。
女の子が一人で治安がいいとは言えない中南米を貧乏旅行していること自体、充分に変わっているが、オトコの趣味や食べ物の好みもなにもかも普通でない彼女。「あんた、珍しいよ、それ」「珍しいオンナだねぇ」と何度も僕に言われた上、挙げ句には僕から「裏ちん(珍)子様」と命名されることになってしまった(裏がついているのは○浦という彼女の姓に由来する)。おいたわしや。


「これから、フチタンというゲイ差別のない珍しい町に行く」と言うと、裏ちん子様は目を輝かして「あたしも一緒に行ったらアカンですか?」と迫ってきた。「面白そうやわー、行ってみたい、行ってみたい!」さすが、反応が突拍子もない。出会ったその場で「裏ちん子様」と命名しただけのことはある。

「で、でもホテルとか一人分しか予約していないし」と、たじろぐワタクシ。
「ソファーででも、どこでだって寝られますて!」
「で、でもねぇ、歩きまくりのキツイ日程だから。。。」
「ダイジョウブです、歩くんやったら、まかしといてください!」


なんてことを言われても僕は一人旅が好きで、「ちょっとトイレに行ってくるからバッグを見張ってて」とか「ガム買って来るから、列車のチケット買う列に並んでてて」とか、そういうことができない不便さを覚悟してでも一人で旅に出るのである。
この旅はゲイについての取材をいっぱいしたい旅なので、いろいろなゲイの人の話を聞きたいわけだし、それには「自分もゲイです」という当事者性が大事になってくるだろう。女の子を一緒に連れて行ったりしてると、いくらゲイですって自己紹介しても、そうは見えなくなってしまうかもしれない。
なによりも、日本人と一緒に旅をしているとコミュニケーションに飢えることもないので、言葉も通じない国の人とわざわざ喋ってみようとは思わなくなってしまう。日本人の仲間内で完結した旅になってしまい、現地の人々は背景に過ぎなくなってしまうのだ。
そんなようなことを出来るだけソフトに、裏ちん子様に伝えた。


すると、なんと、あろうことか、裏ちん子様の目からみるみる涙があふれ出したではないか。
ちょ、ちょっと、なんで泣くんだよぉッ、やめてッ、いやがらせッ!?
狼狽する、ワタクシ。裏ちん子様の下腹に正拳突きをいれて気絶させ逃げようかと思ったが(だって僕が泣かせたみたいじゃん)、そうするわけにもいかない。教会前の広場にいる人たちが、泣いている裏ちん子様に気づきはじめた。
「みなさん、この人は勝手に泣いてます、勝手に泣いてるんですよぉぉぉッ」と、日本語で叫んでもムダである。
こんな目に遭うなんて。。。。こんな目に遭うなんて。。。。

「泣くこたぁないでしょ、泣くこたぁ。。。」と、癇癪持ちの彼女を持つノンケのような理不尽な思いで、泣きじゃくる裏ちん子様をなだめてすかすワタクシ。
「ひとりぼっちで、寂しかったんです。。。」と、しゃくりあげながら彼女は言った(かんべんしろっ)。
「ひとりじゃ寂しいんだったら、ひとり旅なんてしちゃ駄目なんじゃん?」そう言うと、裏ちん子様は道ばたにしゃがみ込み、わんわんと大泣きした(やな奴)。このまま放って行くわけにもいかないので、いったんホテルの自分の部屋まで連れて帰ることに。こんな、爆弾みたいな女だったとは。。。


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カミノ・レアルに着くと、裏ちん子様は「わぁー、ごっついホテル!きれいッ!うーつーくーしーいーッ!」と、大興奮。「あれ、なんやろ。石像のアタマから水が出とるやん。ぶわぁっ、噴水やった。水あびてもたがな。」僕を上回る見事な半下女(はしため)ぶりであった。さすがの下町・庶民派のワタクシでも、父親に訪ねてこられてしまったイライザ(マイ・フェア・レディ)のような気持になってしまう。襟首をひっつかむようにして、裏ちん子様を部屋に放り込むワタクシ。

「うわぁ、ごっついキレイな部屋!いやぁ、涼しいッ!冷房ある部屋ちうたら、何日ぶりやろ。」
「さっきまで大泣きしてたくせに、はしゃぐな、ボゲッ!」と、飲み物を与えながら、裏ちん子様を罵るワタクシ。
「ホンマに泣いてんで。どんな寂しかったか。あっちこっちの教会で泣き通しやってんで、アタシ。」
「だったら、一人旅なんかするんじゃねぇよ、日本に帰れ。ぎゃあッ、ジュースこぼしてんじゃねぇよ、拭けぇッ!」
「はじめはな、ニューヨークやらワシントンやらアメリカ東海岸におった頃は、気張って一人でやっててんけどな。アタシ、妹おるんやんか。電話でアメリカ楽しいよ言うたら、アタシも旅行するてロスで妹が合流してん。ほんで妹と一緒にな、シスコやのアトランタやのグランドキャニオンやの行ってな、あーでもないこーでもない言いながらメキシコ着いたらな、ほたらアタシもうエエわ言うて妹、日本に帰ってしまいよってん。ひとり残ったらアタシ、ひとりで気張ってたバリアなくなってて、めっちゃ寂しなってしもてんや。」


裏ちん子様は口数は多いものの、どこかぐったりしていて元気がないカンジがした。
結婚に失敗したあと、一人暮らしにも挑んでみたが、敗退。自宅に戻ってフリーターになったが、周囲とうち解けられず(そりゃ、ちん子だからねぇ)、ここのところ敗けっぱなし。そんな自分に嫌気がさして、もっと自分が好きになれる自分を探しに、アメリカ縦断の旅に出たのだという。
「そんなもん、日本で見つけられない人は、外国に来ても見つけられません!」と言ったら、裏ちん子様は再び泣き出した。「泣くんじゃねぇよ、あほ!鼻垂れ!しょんべんタゴ!泣きまんぢう!べったら漬け!キツネザル!」泣きっ面にハチとばかりに罵声を浴びせかけるワタクシ。すると裏ちん子様は、「わんわん泣く」「ゲラゲラ大笑いする」を同時にやってのけるという離れワザを見せてくれた。やはり、タダモノではない。


裏ちん子様は超貧乏旅行中なので、今日は朝からリンゴ1コとパンを少し食べただけだという。
とりあえず裏ちん子様の血中糖度を上げてまともな精神状態にしてから別れようと思い、ソカロのカフェに連れて行くことにした(しょうがない、旅日記のネタにさせてもらうかわりにメシぐらいおごってやるか)。明日向かうフチタンまでのバスのチケットを買わなくてはならなかったので、ソカロに行くついでにそれもゲットせねば。

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裏ちん子様はおいしいチーズのドバドバ入ったサラダと、モーレ・ソース(オアハカ特産のチョコレート入りのソース)のたっぷりかかったチキンのタコスと、バナナの葉でくるんだアイスクリーム(日本のよりネットリしている)をもりもりと食べ、見違えるように元気になった(なんちう女や)。


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チョコレートとチーズの入ったモーレ・ソース。おたふくソースをちょっと甘くしたカンジ?


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ちょっとねっとりした、アイスクリーム。


カフェでカプチーノを飲みながら「まぁ、集団の中で生きていけない弱い種の魚がどんどん隅っこに追いやられて、肺魚になって陸に上がったんだから、日本で生きづらい思いばかりしてるキミは進化に近い存在なのかもね」と、裏ちん子様に言う。
ピンボールのようにあちこちではじき飛ばされながら、ぎこちなく生きている(人のことは言えないが)彼女の心情を思うと、なんだかわからないが親近感を感じた。どんなに心もとない自分でも、人は誰しも自分を生きていくしかない。裏ちん子様も、ぎこちない自分に必死でイグニッションをかけアクセルを踏んで毎日を生き、そして超貧乏一人旅を決意してしてやってきたのだ。
裏ちん子様の健気な生きざまに、言葉ひとつに過ぎないが、激励の言葉を捧げたくなったのだった。


「せやろか、進化なぁ・・・・!」目を輝かせ始める、裏ちん子様(単純な女)。
「うん、こうやって一人で何かを見つけに来ること自体、進化と無縁の人には考えつかないことだもん。」
「アタシな、アタシな、なんやよう知らん、工芸やりたいと思うようになってんや。これから南米行くねんけど、なんやヒント見つけてくるわ。」
「生き延びなきゃ、だめだよ。進化するまえに死んじゃったら、淘汰だかんね。」
「せやな、生き延びるわ。アタシ、肺魚になる。」
「なにか縁があるものに、めぐりあえるよ。」

裏ちん子様は真剣なまなざしで、僕の目をまじまじと見つめてきた。
「なに、なんだよ!」また爆弾みたいな攻撃をかまされるんじゃないかと、おののくワタクシ。
「あたしな、なんで旅するのアメリカにしたかいうとな、占いで言われてんやんか。アメリカ大陸で、一生忘れられへんようなソウル・フレンドに出会えるねんて。もしかしたら、歌川さん。。。」なんて言い出したので、言い終えないうちに「僕じゃアリマセン!」と大否定してしまった。「なーにがソウル・フレンドだよ。そんなもんにされてたまるか、バカ女!しゃーッ!」

否定してみたものの、裏ちん子様との出会いはやっぱり素敵である。
メキシコの田舎町でなければ、こんな出会いはあり得ない。
もし日本もしくは外国の大都会で彼女と出会っていても、パッセンジャーとしてすれちがうだけだ。こんな数時間のうちに彼女を「裏ちん子様」と命名したり、バカ女と罵ったり、彼女のぎこちなくも懸命な暮らしぶりを聞いたりはできない。わんわん泣きながらもゲラゲラ大笑いするという(ほんとに同時にやってのけた)、ちょっと人間離れした技も披露してはもらえなかっただろう。
自己コントロール能力が全然ないのに、ひとりでアメリカ大陸縦断なんて大胆なことを実行してしまう、「進化する女・裏ちん子様」。僕にとっても、彼女はちょっと忘れられない人になった。


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カフェでゆっくりと食事したあと、「もう一回サント・ドミンゴ教会へ行ってみよう」ということになり、早足で向かう。
そしたら、なんと今回は開いているぢゃありませんか。
午後に教会が閉まっていたのはシエスタ(長い昼休み)をとっていたからで、警備の兄ちゃんが「今日も明日も閉まっている」と言ったのは、「この時間はいつも閉まってるよ」という意味だったのだと推測した。
裏ちん子様を「給料3ヶ月ぶん」のコマーシャルのように抱き上げてクルクル回りながら、喜び狂うワタクシなのでありました。

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