世間は狭いものだ! 突然、嬉しい便りが・・・ | オーストラリア移住日記

オーストラリア移住日記

憧れから、移住決行、移住後の生活、起業、子育て、そして今・・・

「加藤さん 突然の連絡をお許し下さい。以前、浅草の神谷バーでお会いした者です」

本当に突然だったが、そんな書き出しのメールが届いた。

「実は、この春から転勤になり、XXX署に移動になりました。加藤さんの高校同期の斎藤さんには、その後も度々お世話になっています」と続けられている。

 

私には、訪日するたびに必ず一献傾けたくなる友人がいる。 

彼は東京湯島で100年以上不動産業を営む4代目であり、東京(江戸)の下町情緒を知り尽くす粋(いき)な彼と一緒の時間は私にとって至福の時なのだ。

昨年暮れの訪日の際、彼に誘われて浅草を訪れた。

浅草「今半」で昼から贅沢にすき焼きをご馳走になり、熱燗を酌み交わしながら語り合った。

そして、その後は浅草寺の前を抜け、浅草の代表格「神谷バー」へと向かった。

日曜日の昼下がり、神谷バーは席を探すのが大変なほど混みあっていた。

ビールの大ジョッキと神谷バー名物 「電気ブラン」 が運ばれてくる。

周りを見回すと、客の大半が我々と同じものを飲んでいる。

 

誰かと目が合うと必ず笑顔が返ってくる。

言葉は交わさなくても、「調子はどうでぇ?」と聞こえてくるようだ。

オーストラリアのパブに似た雰囲気はあるが「ここは東京浅草でぇ!」という粋を感じさせる。

とは言っても、そのほとんどは地方やよその県からやって来た客なのかもしれない。

 

神谷バーは明治13年の創業、客の誰もが知る "電気ブラン" は「明治15年に創業者神谷傳兵衛が生んだ浪漫の香り漂う浅草を代表するカクテル」と言われている。

もちろん、私はこの店の宣伝をするつもりはないが、多くの文豪がこの場所を愛し、今もこの店の隅っこで物書きが静かに酒を煽っているような古き良き時代を思わせる場所なのだ。


私達が陣取った隣では、私と同年代のグループと思われる連中が言葉を交わしながら愉快に私達と同じものを飲んでいる。

その中の一人のお国訛(なま)りが私には心地よく響き、彼は私と同郷に違いないと思った。

 

「どちらから、いらしたんですか?」 

場違いと思える丁寧な口調で口火を切ったのは彼らの方からだった。

「実は、私は随分長いことオーストラリアのシドニーに住んでいるんですよ。皆さんは?」

「へぇ海外に住んでるの? 今日は、ちょっと会社の集まりがあって、あっちこっちから集まってんだよ。 こういう出逢いがあっからここはいいんだよなぁ」 

まるでU事工事がそこで話しているような口調に、私は絵も言えぬ親近感を感じた。

それが、酒の酔いもあって実に心地よかった。

 

その後、彼の言ったあっちこっちから集まったの説明が始まった。

彼は山梨のどこそこで、彼は群馬のどこそこ・・・ 彼が仲間たちがどこからやって来たのかを何の警戒もせずに話すのが実に愉快だった。

彼は私が予想した通り私の同郷栃木県からだったが、彼らとの距離が益々近くなった。

いつの間にか別の周りの客も会話に加わり、その一角はまるで長年の仲間達の集まりのように笑いに包まれた。これが ”浅草神谷バー” なのだ!と感じるばかりだった。

杯を重ねるうちに、もう一軒行こうかというほどに意気投合し、その後は、どちらからともなく名刺の交換が始まった。

警視庁警視、XX県警警視・・・ 

*「警視」で検索してみると、全警察官の2.5%と書かれている。

この日の午前、何らかの警察幹部の会合があったようで、久しぶりに出逢った気の合う者同士が、浅草に繰出し、この神谷バーにたどり着いたという。

日曜とは言え、昼間から飲む彼らが「会社の集まり」と言ったのが理解できた。

 

彼らは決して自分の身分を隠したのではなく、場の雰囲気を壊したくないと思ったに違いない。

「私の親友で高校時代のラグビー部の同期だった斎藤が県警○○課の課長だったはず・・・」

「えッ 斎藤課長には毎日お会いしております

お国訛りが私と一緒の彼が、背筋を伸ばしてそう言った。


シドニーに戻ってから斎藤に連絡をしたが、神谷バーで出逢った彼は翌朝斎藤に報告に来たそうで、その偶然を笑いながら、彼がいかに優秀な警察官であるかを知った。

その後、3月末の異動で、彼がある広域な警察署の署長に栄転したことを斎藤から聞いた。

突然届いたメールには、神谷バーで談笑した他県警の警視も、地元の地域警察署の署長になったと書かれており、それは私にとって何とも嬉しい連絡だった。

私は、「次回の訪日の際、お祝いしましょう」 と返信を送った。

 

オーストラリアでは、警察官が制服のまま当たり前にマクドナルドの売り場に並び、平気でコンビニでコーヒー買い、その場で楽しんでいる光景を見掛ける。

日曜日にはショッピングセンターで市民(特に子供)向けのイベントを開催し、恵まれない子供達へのファンダライジング(募金活動)をする姿をよく見掛ける。

そのフレンドリーさが、普通に街や市民に溶け込んでいるのが素晴らしい。

訪日中に警察のお偉いさん達と一献傾けた愉快なひと時を思い出しながら、昨今は日本にも彼らのような警察関係者が増えているのかなぁと考えていた。

もちろん、それは私の希望的思いなのだが・・・

次の訪日の際、同期の斎藤に例の署長と一献傾ける機会を作るよう依頼しよう!