飲み込むと | 0.0のブログ

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 まるで、昼と夜とでは別人だ。抱けば抱くほど魅力的で、抱き足らなくなってくる女である。
 が、於松がへばりついている。
「次はいつ戻ってくるのであろうな」
 そう言いながら、梓は赤い唇を酒に一口つけた。自分の上唇を白桃色の舌で拭いながら盃を盆の上に戻し、牛太郎にゆっくりと視線を上げてくる。
「今度はきちんと文を出しておくれ」
「も、勿論」
 牛太郎はごくりと唾を飲み込むと、のそりと腰を上げ、窓辺に近づいて壁をごつごつと蹴飛ばした。
 梓が目を丸めている。
「何をしておるのじゃ」
「ちょっと、近頃、ねずみが出てくるので。目ざわりで仕方ないんです。こうでもしないとどっかに行ってくれないんです」
 梓は首を傾げる。
「ちょっと、暑くないですかね」
 と、牛太郎は戸を開けて、闇の中を覗き込んだ。人影はない。
「戸を開けたら肌寒い」
「そうッスね」
 牛太郎は戸を閉めるとにたにたと笑いながら梓の傍らに腰かけ、彼女の髪に指先を入れた。
「梓殿はいつまで経ってもお美しい。いや、昔よりだいぶお綺麗になりました」
 梓がうっとりと見つめてくる。
「亭主殿も年々逞しくなっておる」
 梓の指先が牛太郎の襦袢の襟をかいくぐってき、胸元から腹部を撫でていった。
「出会ったころに比べて体が引き締まっておる」
「いやあ、いくさばっかだし、暴れ馬に乗っているからッスかねえ」
「にやけた顔は相変わらずじゃが」
 そう言いながら、梓はそのにやけた口に唇を添えてきた。

 翌朝、一夜のまどろみの余韻にぼんやりとしながらも朝食を済ませた牛太郎は、素襖を纏わずに、半纏に股引という姿で脇差だけを腰にしめると、太刀を新三に渡し、火縄銃を栗之介に持たせ、一家の連中の見送りを玄関で受けた。
「じゃあね、駒ちゃん。すぐに帰ってきますからねー」
「あーあー」
「くれぐれも行方はくらまさないようにお願いしますよ、父上」
「そんなの時と場合によってだ」
「なんじゃと?」
 昨夜のこともどこへやら、梓の眼光がにわかに鋭くなって、
「そ、そういうわけじゃありませんっ。ただ、この馬鹿が減らず口を叩くもんだから」
「もっともなことを申しただけではないか」
「あ、いや――」
「旦那様、彩ちゃんと四郎次郎殿によろしくお伝えください。たまには岐阜に戻ってくるようにとも」
 あいりに助け舟を出されて、牛太郎はなんとか無事に玄関から出られた。
 門の向こうには荷駄を身に着けた栗綱がぼんやりと待ち構えていたが、その隣に小さな禿げねずみがいた。
「ししし。作晩はさぞかしお楽しみだったでしょう」
「テメーッ! ぶっ殺すぞっ!」
 頭に血が昇った牛太郎は於松に殴りかかったが、於松は栗綱の影にひょいと隠れてしまい、玄関先では牛太郎の騒々しさに目を丸めていて、牛太郎は舌打ちして拳をおさめた。
「いつか煮干しにしてやる。クソジジイ」
「ししし」
 栗之介と新三がきょとんとしている。
「こいつはおれの新しい家来だ。使い者にならねえから、信長様がおれに押し付けてきたんだ」
 栗之介が於松を睨みつけながらも、牛太郎の前に掌を出してきて、牛太郎はそれを踏み台に栗綱の上へと跨った。
「小僧。途中でへばっても待ってやらねえからな」
 陣笠を被って太刀を抱える新三は、馬上の牛太郎を見上げてきて言う。
「だったら、陸路ではなく、佐和山で水路に変えるのがよろしいかと思うのですが」
 いちいち口ごたえしてくる新三に閉口して、牛太郎は相手にせずに手綱を振るった。
 馬丁の栗之介はともかく、老人と子供を引き連れての心細い旅路。堺に到着しても、待っているのは彩と四郎次郎だけ。新七郎は事実上太郎 相关的主题文章: