て出てきそうなものだが | 0.0のブログ

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三河勢の性質からして、復讐心から野戦に打って出てきそうなものだが、まったく動かない。それに、彼らは主人の指示にもよく従う連中なのである。
 あとは、三河守を飼い犬にしている織田上総介。ここまでの城郭を野原に築きあげるなど、武田に対する警戒心はよっぽどである。
 彼らの頑なな臆病風ほど、付け入る隙かもしれない。
 大久保隊を北方に押しつつ、後詰の突撃が繰り出されたあと、自分たちは連吾川を越えて再び体勢を取り戻す。そのとき、馬防柵にひびが入っていれば、勝機はかすかながらでもある。
 そのとき、奴のことだ、出てくるであろう。
「押せえっ! 銃弾に怯むなあっ!」
 すると、連吾川の向こうから押し太鼓の鳴りが聞こえてきた。
 小幡隊二千が猛然と駆け抜けてきた。
その生涯に光を放て(3)

 弾正山に陣を敷く徳川三河守は、伊那街道の地点、徳川勢から見て最も最右翼の激戦を、祈るような心持ちで見つめていた。
 赤備えの山県隊に誘導されて手薄になったところに、小幡隊が突撃をかけてきた。三百の火繩銃と命を惜しまない三河兵の働きでもって、新十郎はこれをなんとか退き返したが、次いで、小山田隊の怒涛の唸り声が連吾川を越えてきた。
 右翼を集中的に攻撃されている。


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 三河守の側近である鳥居彦右衛門元忠が言った。
「おやかた様。このまま大久保殿の陣に応援を回さないでいると、敵方に突破されてしまいます」
「わかっておる。わかっておる」
 三河守のこめかみから顎にかけて汗が滝のように流れていて、彼はそれを拭いながら、悲愴な眼差しで激戦地を眺める。
「わかっておるが、動かせまい。お主もわかっておろうが」
 確かに武田騎馬隊は恐ろしい。上総介にも時が来るまで打って出ないように言い聞かされている。ただ、部隊を動かせない大きな理由は、何もそれだけではなかった。
 仮に本多隊や榊原隊を回してしまったら、連吾川の向こうに控えている武田本隊が押し寄せてきたとき、馬防柵の防衛線の空白地点を狙われてしまう。
「とはいえ、突破されては元も子もありますまい」
「ならん。目先の危険を恐れて動いては、本来の目的が遠退く。お主も三河の者なら新十郎と治右衛門を信じてみんか」
「信じていないわけではありませぬが、しかし――」
「辛抱だっ! 今は辛抱なのだっ!」
 三河守は彦右衛門を黙らせたものの、太腿を揺さぶりながら、どうにもならない焦りを抑えつけるように、親指の爪を前歯で噛み締めた。


 夜明けとともに火蓋が落とされてから、一刻(約一時間半から二時間余)。山県隊、小幡隊、小山田隊と、伊那街道を驀進してくる武田軍の猛攻を、徳川勢大久保隊は見事なまでに凌ぎ切っているが、茶臼山本陣から戦況を眺める織田将校たちには焦りが生じていた。
 中央に転戦していた山県隊赤備えは、小幡隊の突撃が始まってからしばらくすると、退き太鼓を鳴らして連吾川の対岸へと散り散りに戻っていき、体勢を整え直そうとしている。
 三百丁の火縄銃にこらえきれずに敗走した小幡隊も、山県隊に合流する構えで、再度、左翼突撃を行う姿勢にも見えた。
 今、小山田隊が攻防を繰り広げている背後には、武田典厩の黒備えが控えており、この部隊が次の左翼突撃に投入されるのは明らかであった。
 掘久太郎は、上総介の傍らに取り付いている長谷川藤五郎の背後にひそかに忍び寄り、彼の肩を叩くと、上総介の目の届かないといころ、本陣の隅に誘い込んだ。
「竹。これはまずいぞ」
 と、久太郎は囁く。
「後詰の岡崎殿か若君の部隊を回さなければ手遅れになるやもしれん」
 藤五郎は顔をしかめた。
「そうは言っても、誰がおやかた