った。
「いまの混ぜ方で、わたしはいいと思う。さっきつくった泥色の薬水に、甘草と天豆と蜻蛉蔓の実を煎じたものを混ぜて、高比古に飲ませて。――ううん、量を減らして。わたしは飲みすぎちゃったみたい。量は、小さなさじに一杯あれば十分だと思う。それでも、飲んだらたぶん苦しくなるから、塩を……。でも、どうしよう……あんなものをあれだけたくさん、眠っている人が口にできるわけがないね。……そうだ、高比古の口の中に、塗り続けて。彼が舌を動かしたりするたびに、身体の中に入るように」
「はい、わかりました、姫様……」
鼻をすすりながら、狭霧を取り囲む事代たちは何度もうなずいた。
「煎じ薬は、たくさん用意して、口に含ませ続けてね。あれは、毒を和らげるためのものだから。でも、多すぎると身体が驚くわね――。高比古の様子を見て、量は調えてあげて」
「わかりましたから、だから、もう眠ってください――! 最後の熱というのは、すぐさま身体を休めよという身体の悲鳴です。おっしゃったとおりにお薬を用意しますから!」
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「もういい、紫蘭! 言霊で姫様に眠りを……!」
まぶたを閉じゆきながら、最後に狭霧が聞いたのは、桧扇来の叫び声だった。
それにも狭霧は、待って、ちがう……と、文句をいいたかった。
わたしに構う暇があったら、一人でも多く高比古について、彼の身体を守ってあげて。それから、彼のそばで彼のために命を捧げる日女を――。だって、わたしは――。
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意識を失うまでのあいだは、とても短かった。
でも、そのあいだにいろいろなことを考えて、想って、それから、もういいやと諦めた。
先にあるのは闇ばかり。その闇に明かりを灯したところで、闇が晴れた後にあるのもきっと闇だと感じていた。だから、どちらも闇なら、もうおしまいにしてもいいや。その瞬間が誰かを――高比古の命を助けることに繋がるなら、とても明るい闇だなあ――。そんなふうに思って、満足した。
「出雲の姫が、毒をあおった」
「毒を浄(きよ)める薬をつくって、その効き目をたしかめるために、みずから毒味を――!」
「すぐに御身を神床へ運べ。呪女の霊威が届く輪の中へ!」
「どいてください、道をあけなさい! 姫様がみずから仕上げた薬を、高比古様に飲ませるんです」
「ここまで形になったのにうまく使わなかったら、あとで姫様が悲しみます。どきなさい、場所をあけてください!」
狭霧が意識を失ってから、夜の浜には喚き声や叫び声が溢れて、何事か起きたと騒ぎ始めたやじ馬までが浜の中央へ集まってきた。
もともとそこにいた笠沙の男たちは、力強い掛け声とともに狭霧の身体を持ち上げて、高比古が横たわる寝床の彼の隣へと運ぶ。
事代たちは細い身体を包む裾の長い衣装をひきずりながら、目の色を変えて高比古の枕元を陣取った。
「なにをしているのだ。あなたたちがそこにいれば、笠沙の呪女たちの祈祷が届かぬではないか……!」
笠沙の巫女へ無礼をするなと腰をあげた海民もいたが、事代たちはいまに限って、有無をいわせぬふうに海の大男たちを退けた。
「黙りなさい。姫様が仕上げた薬を飲ませるのが先です! 出雲は医術と薬の国。この先、高比古様の治癒は、我々が司ります!」
そうして、彼らが運んだ器や麻袋で、高比古の枕もとの隙間は埋まっていく。
笠沙の呪女たちはとうとう円舞をおこなう足を止めて立ち止まり、ぽかんとそれを見つめた。
その一部始終を、佩羽矢(ははや)は遠くから見ていた。
自分になりすました高比古が、自分の代わりに殺されかけたのを目の当たりにしてからというもの、ずっと腰は抜けっぱ