連載6 城野遺跡/帰ってきた弥生人 第2章 発掘調査の内容③ “旧石器と火山灰”
帰ってきた弥生人-城野遺跡発見の一部始終をたどる-第2章 発掘調査の内容③“旧石器と火山灰”この城野遺跡でみつかった最も古い遺構からご紹介しましょう。それは、縄文人が狩りを行った証拠となる落とし穴です。合計12箇所で長方形の土坑が見つかり、底には杭を突き立てたような穴もみられました(写真1)。おそらく、シカやイノシシなどの獲物を追いつめ、この穴に落とし込んで弱ったところに弓矢などでとどめを刺して捕まえたものと思われます(図1)。■写真1 みつかった縄文時代の落とし穴床面の中央に深い穴があり、尖った杭を逆さに突き立てたものと思われる(縄文時代早期 約9000年前)■図1 落とし穴をめぐる戦い獲物が穴に落ちて弱ったら、容易に這い上がれないくらい深い。しかもこの落とし穴が作られたのは縄文時代早期(今から9,000年前)というとてつもなく古い時代。押型文土器というこの時代特有の形をした土器のかけらが穴の中から出土したのです。城野遺跡の狩人たちは足立山のふもとのけものみちになっていたこの場所で、獲物を待ち受けていたのです。それだけ、当時足立山山麓にはシカやイノシシがたくさん棲息していたのでしょう。実は、城野遺跡からはもっと古い旧石器時代(今から約2万年前)の石器も20点ほど見つかっており、城野遺跡に人類が住み始めたのは太古の昔にさかのぼることもわかりました(写真2)。■写真2 旧石器時代の尖頭状礫器(せんとうじょうれっき)自然礫を打ち欠き、先端を尖らせている。高さ5.7㎝。さらに驚くべき事実が発掘調査でわかりました。信じられないかもしれませんが、阿蘇山が大噴火を起こした7〜9万年前、その時降った火山灰が城野遺跡の地層を形作っていたのです。写真3にみえる上層のオレンジ色の土層、そしてその下にある黄色い土層いずれもがAso4と呼んでいる火山灰層です。上層は通常「鳥栖ローム」下層は「八女粘土」と呼んでいますが、約150kmも離れた阿蘇山からこんな場所にまで火山灰が到達したなんて………。しかもこの火山灰は数mの厚さで積もっていることも今回の発掘調査でわかりました(写真4)。■写真3 Aso4の堆積状況岩石・地質の専門家による土壌調査風景(城野遺跡)■写真4 Aso4の堆積状況深いところでは4m以上あり、途中に黒い炭化物層もみられる。Aso4は図2に見るように、火砕流が山口県域まで、火山灰は北海道や中国、朝鮮半島にまで到達していることがわかっています。■図2 Aso4の到達範囲7〜9万年前に大噴火した阿蘇山の火砕流は海を渡って山口県秋吉台まで到達した。火山灰はさらに広域に積もっている。(テフラ https://ja.wipipedia.org/wiki/より転載)とすれば、ここに住んでいた人々はどうなったのでしょうか。おそらく動植物はすべて死滅してしまったのではないでしょうか。それでもこの場所は再び2万年前から人々が住み始め、私たち現代人まで繋がっているのです。私はこの事実を知ったとき身震いするほどの感動を覚えました。このように、城野遺跡は考古学だけでなく地質学、土壌学、気象学、人類学の分野でも新たな事実を語ってくれているのです。(次回に続く)【寄稿/佐藤浩司氏のプロフィール】 1955年福岡県生まれ、九州大学文学部史学科卒業。1979年北九州市教育文化事業団(現・市芸術文化振興財団)入所。埋蔵文化財調査室で開発事業に伴う城野遺跡をはじめ市内の数多くの遺跡の発掘調査に携わり、2015年4月室長に就任後、2020年3月退職。2014年から日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会の幹事として九州各地の文化財保護にも携わる。現在、北九州市立大学非常勤講師。【動画 城野遺跡発掘調査記録 朱塗り石棺の謎】(14分)発掘調査の唯一の録画です。発掘当時の感動がよみがえります。ぜひご覧ください。↓ここをクリックしてください。https://www.youtube.com/watch?v=QxvY4FBnXq0.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・城野遺跡/帰ってきた弥生人 目次-城野遺跡発見の一部始終をたどる- ※日付は掲載日第1章 城野遺跡発見の経緯と経過(3回) ☞ ①2020/8/2 ②8/10 ③8/17 城野遺跡はどのように発見され、どのように取り扱われてきたのか?第2章 発掘調査の内容(12回) ☞ ④2020/8/24 ⑤8/31 ⑥9/9(今回) 発掘調査により、どのようなことが明らかになったのか?第3章 注目すべき事実(6回) 城野遺跡は弥生時代の北九州の歴史にとって、何が重要なのか?第4章 立ち退かされた弥生人(4回) ここで暮らした弥生人たちは、どこへ?第5章 遺跡保存への道のり(3回) 発掘担当者の悩みと苦しみ第6章 立ち上がる市民と城野遺跡(6回) 守ることと伝えること…第7章 立ちはだかる壁(4回) 行政判断の脆弱さを問う最終章 帰ってきた弥生人(3回) 新たな歴史の誕生 ※内容や回数は変更することもあります。週1回程度のペースで連載予定です。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・