…ということで、先ごろ福岡へ出かけるきっかけとなった「新・福岡古楽音楽祭」を覗きにアクロス福岡までやってきたところへたどり着いたわけですが、こまごましたことまで振り返っている関係もあり、すでに音楽祭からひと月以上も経過してしまっておりまして…。ま、そういうこともあるということで(笑)。
音楽祭の開幕コンサートは、どうやらアクロス福岡にある福岡シンフォニーホールのランチタイムコンサートの位置付けでもあるらしく、開演時刻が12:00ということになっておりましたなあ。で、これに遅れてはならじとばかり、早め早めに移動してきた関係で時間に多少の余裕が生じたとはすでに触れましたとおり。これ幸いと、音楽祭の一環で行われていたパネル展示を見て回ったのでありますよ。
音楽祭の今年のテーマが「華麗なるイタリア、絢爛なるフランス~どちらがお好き?~」とあって、音楽はもとより、さまざまな点でイタリアとフランスの違いが紹介されておりました。とはいえ、古楽音楽祭の関連展示ですので、バロック音楽の時代背景を鑑みたトピックではありましょう、まずは「建築物」についてです。
いやはや、イタリアとフランスを対比するにしても、極端な例をもってきたのではなかろうかと。イタリアからはローマのサンピエトロ寺院、フランスからはヴェルサイユ宮殿とは。まあ、年代的には解説にあるとおり、バチカンが16世紀、ヴェルサイユが17世紀の建物となれば、バロック音楽の時代と言えましょうかね。考えてみれば、聖俗の対比としても面白いとは言えますかね。お次は「絵画」になります。
イタリア側からはバロックの代表選手、カラヴァッジョを取り上げて「絵画は宗教的情熱と感情の動きを強調し、観る者の心を揺さぶる手段として機能しました」と説明が。一方のフランスはそれよりも少し遅い時代としてロココのフラゴナールが取り上げられておりましたですね。フランスでは「18世紀前半には宮廷文化が爛熟し、ロココ様式が流行」したわけですが、その影響はやがてイタリアにも及び、こんな説明が続いておりました。
18世紀中頃からはロココ様式が広まり、バロックの重厚さに代わって軽やかで優美な色彩や曲線が用いられ、幻想的な雰囲気が強調されました。絵画の主題も宗教から世俗へと移行し、宮廷生活や恋愛、遊戯など日常的で享楽的なテーマが主流となり、親しみやすい表現が好まれるようになりました。
先に見た建築物が聖と俗の対比であったわけですが、なにやら時代の流れ自体も聖から俗へと流れていった、結果としてイタリア文化に憧れる一方であってフランスが自ら文化の担い手として台頭するようすまで浮かんでくるようでありますねえ。
さてとようやく「音楽」の話になってまいりますけれど、バロック期の作曲家としてここで紹介されていましたのは、イタリアからモンテヴェルディ、コレルリ、ヴィヴァルディ、フランスからはリュリ、クープラン、ラモーでありましたよ。これまた気付いてみれば、イタリア側はみな教会付きの音楽家であって、フランス側は宮廷音楽家なのですよねえ。改めて、時代感になるほどなあと。
とまあ、そんな作曲家たちが作りだした音楽の様式の違いも、掻い摘んで紹介されておりました。ここでもやはり、イタリアとフランス、同時代の比較というよりはイタリアからフランスへの流れの中で、ということになりましょうけれど。ともあれ、それぞれの特徴を3点ずつ取り出しておりまして、まずイタリア、次いでフランスです。
- 躍動的な装飾音:音階的動きで音と音を結び、躍動的で饒舌な旋律線を形成
- ソナタによる物語:テンポ感の違う楽章やセクションで物語の場面転換を思わせる
- 協奏曲Concertoの誕生:独奏楽器と合奏が交互に演奏し、その対比を楽しむ
- 小さな動きの装飾音:トリルやモルデントの様な、ある音を装飾する動き
- 舞曲の豊富さ:シャコンヌ、メヌエット等々、多くの舞曲があり、それらは「組曲」としてまとめられる
- 「イネガル」:八分音符等が不均等に演奏され、独特のノリを形成する
バロック音楽を好んで聴いてはおりますが、耳心地の良さにほんわりしつつも音楽様式のあたりにはとんと無頓着で来てしまっていたところで、装飾の違いなどはとても分かりやすい点であるなと思ったものです。…と、そんなパネル展示を見ているうちに演奏会の開演時刻が迫ってきました。それでは、足早に会場へと向かう人の波に紛れ込むことにいたしましょう。





