トッパンホールに出かけたなればやっぱり立ち寄ってしまう印刷博物館…といっても、今回はちとケツカッチンだったもので博物館本体の展示には立ち入れず、無料の併設施設であるP&Pギャラリーを覗いただけなのですけれど。余談ながら、この「ケツカッチン」という言葉は映画などの撮影現場で使われていた業界用語だそうですねえ。
と、余談はともかくP&Pギャラリーの展示のお話。7/6まで「GRAPHIC TRIAL 2025 -FIND-」展が開催中でありまして、「第一線で活躍するクリエイターとTOPPANが協力して新しい印刷表現を探るプロジェクト」を紹介するものの19回目だそうな。たびたび覗いている施設ながら、知りませなんだなあ。
ともあれ、第一線で活躍するクリエイター4人(たぶん、その筋では超有名人なのでしょう)が「次世代の印刷表現を追求」するという試みがどんなものであるのか、とくと拝見いたした次第です。
壁面に最終形のポスター作品が展示されて、手前のテーブルではその制作過程を紹介しているという形でして、まず一人めはアートディレクター・妹尾琢史。TOPPAN株式会社所属とは少々手前味噌感がありますですが、とりあえずこの方が目指したのは「透明な層の中で積層感のある空間表現の可能性を探」ることと。
単純に言ってしまいますと、印刷したアクリル板を何層か重ねて奥行き感を出そうということになりますか。サンプルに示されたのが錦鯉だったものですから、どうしたって金魚絵師・深堀隆介の作品を思い出してしまい、あちらの方が層が深いからなあと、つい彼我の差を比べてしまったりも。ま、こちらは金魚、でなくして錦鯉を描いたものばかりではありませんで、それぞれ実に綺麗な仕上がりでしたけれど。
お次はグラフィックデザイナー・関本明子作品ですが、お隣が色鮮やかなものだっただけに地味感が漂うような。狙いは同じく積層感ながらも、塗り重ねていくことで生まれる微妙なグラデーションを求めたようでありますよ。
制作過程の紹介を見れば、その「びみょ~」な積層感がなんとか見てとれ、「ほお~」と思いながら眺めていたですが、大雑把な写真からはその欠片も感じられませんでしょう…。
続いてはまた派手系の作品ですな。デザイン・エンジニアの吉本英樹が手掛けていますけれど、この方、もともと東大で宇宙工学をやっていたところがロンドンでデザイン工学を学ぶ方向に…という背景を知ると、だからロケットの発射場面なのね!とは、短絡にすぎましょうか。
打ち上げの際に生ずる「ダイナミックな爆煙の迫力を、印刷表現でどこまで迫れるか探っ」て、さまざまな技法を試みたようでありますよ。制作過程紹介では、いろいろ試行錯誤をして、これは採らない、あれは採るといったことをしていて、これも実験なのであるなと。
結果として、印刷平面とは思われないほどに白煙のもくもく感が生まれることになったと、遠目に見たときには思ったものの、寄ってみればみるほどに「洗顔用に泡立てたシャボン?」のような気がしてきてしまって…(個人の印象です)。
さて最後、4人目となるのがアートディレクター・大貫卓也ですけれど、これまた写真では分かりませんが、「ああ、これ!昔よく見たあれじゃないけんね?」と思うことに。どうやら、技法の正式名称はた「レンチキュラー」というのだと初めて知りました。
レンチキュラーとは?
細長いカマボコ型の凸レンズが並んだ透明なシート(レンチキュラーレンズ)を絵柄の上から貼って、絵柄の変化や立体感をつくりだす特殊印刷技術
要するに見る位置が変わると画像が動いたように見えたりする「あれ」ですね。ブラッシュアップされたレンチキュラー技法によって生まれたのが、例えばこのような。
ちとモノクロ作品は見栄えが今ひとつながら、昔見たレンチキュラーはどうしても画面に滲みのようなものが見られるわけですが、そうしたあたりの解消を突き詰めていったもしたようです。子供のおもちゃのようなものでも、クリエイターの発想源になったりするのですなあ。
その目の付け所と結果において、「おお!」というものばかりではなかったですが、新しいものごとのタネが実はそこらに転がっているものなのだなとも。それを(コロンブスの卵でなくして)いち早く見出せるのがクリエイターなのであるかと思ったものでありましたよ。