…ということで多賀城市の資料館やら史跡やらを巡ってきたわけですが、歩き出したのはJR仙石線の多賀城駅であるも、最後に立ち寄った国特別史跡・多賀城跡の最寄り駅は東北本線の国府多賀城駅と。
宿泊先ホテルに近いのは本塩釜駅ですので仙石線に乗らねばならんのですが、この時は国府多賀城駅から東北本線で塩釜駅(本塩釜とは別の駅)に出ることにしたのでありますよ。時間に余裕があれば寄ろうと思っていた美術館がひとつ、塩釜駅から徒歩10分のところにあるものでして。
駅前の地図看板を見ればたどり着けるだろうと高を括っておりましたら、ごくごく普通の民家が建ち並ぶエリアにどんどん分け入っていくさまには些か臆したものですが、何とかたどり着きました。
いつしかかような高台に達しておりましたが、どうです?廻りは民家ばかりでありましょう。とまれ、見晴らしの良い崖上にへばりつくようにあったのが、目指す菅野美術館なのでありましたよ。
さきほどご覧いただきました周囲のようすからすると、極めて異彩を放つ建物が忽然と!という印象になりますですね。
塩竈市の太平洋を見渡せる丘陵地に立つ菅野美術館は、ブールデル、グレコ、デスピオ、ムーア、ファッツィーニ、マンズー、マリーニ、ロダンといった作家による8点の彫刻を常設展示するための小さな空間です。この美術館のデザインは、一般の美術館のようにどんな展示にも対応する抽象的な白い箱ではなく、8点の彫刻と展示作品が不可分に結びつき、彫刻と場が一体となったちょうどカテドラルのような空間を創り出すことを目指しています。(菅野美術館HP)
展示作品を含めて館内は一切写真撮影不可ですので、所蔵作品の配置と館内のようすとが合わさってインスタレーション空間のようにも思えるあたりは、同館HPにある紹介でご覧願うしかないことになりますな、残念ながら。
で、そんな施設なだけに展示点数が限られてはいても、その分、ユニークな内部空間にとっぷりと身を浸して、作品をじっくり眺めることになる分、物足りなさを感じることはありませんですね。ここでは矯めつ眇めつしたところの印象を振り返っておくことにいたしましょう。
まずは著名作家・ヘンリー・ムーアの『ヘルメットの頭No.6』。外形がヘルメット?と思しき形を示しておりますが、その中にめり込むようにヒトの顔が造形されておりますな。何くれとなく、モノにはそれを使うヒトの記憶、痕跡のようなものを留める…てなふうに人の感性では考えたりしますけれど、そのあたりの感覚をくすぐる造形なのかも。ヘルメットにも被っていた人の顔の記憶が宿るてなふうに。
ジャコモ・マンズーの『枢機卿座像』は1981年作と、いわば現代彫刻作品ということになるわけですが、教会関係の造形の数々に携わっているだけに(?)、この像も昔々から教会の片隅に置かれていたのではという静謐さがありました。ブロンズ作品ながら、中世に造られた木造の雰囲気でもあるかのような。
次いでペリクレ・ファッツィーニの『足を見る女』は裸婦像ですが、至って具体的に人体のポーズを表しているだけに、「何故にこの女性は足の裏に見入っているのであるか?しかも裸で…」と思ってしまいますな。極端にかがみこんだこの姿勢を、作者としては「作り手の再現性が試されるポーズ」と見たのかもしれませんですね。とても細かいところまで造りこんでおりますよ。
もうひとつ、マリノ・マリーニの『小さな裸婦』には展示の妙があったような。マリーニの弟子である彫刻家・吾妻兼治郎がこの作品に合わせてデザイン・制作した台座とともにあるのがよろしいですなあ。鑑賞を豊かにしてくれるような気がしたものでありますよ。
と、展示作品から数点、印象のほどを書き留めましたけれど、所蔵作品のイメージは同館HPで見られますので、印象の個人差が感じられるかも。というより、本当はあの美術館の、あの空間の中でこそご覧いただきたいものとは思いますですよ。