宮城県慶長使節船ミュージアム詣での最後に映像シアターのお話をしましたときに、「このタイミングで見ておかないと帰りのバスに間に合わなくなるという差し迫った事情もこれありで…」てなふうに申しましたが、そもそもこの施設に公共交通機関利用でたどり着くには、同館HPの案内ではこうなっておるのでして。
「JR石巻駅」からJR石巻線女川行き 乗車 約10分「JR渡波駅」下車後、徒歩約25分またはタクシー約5分
往路は石巻で宿泊したホテルの最寄りバス停から鮎川港行きに乗って汐見台公園入口で降車すると、徒歩時間が半減できるという幸運(何せ運転本数が少ない)に恵まれたところながら、帰路にはそうタイミングよく同じ路線のバスは走っておらなかったという。となれば(サンファンパーク前に客待ちのタクシーがあるでなく。呼べばいいのかもですが…)、HPの案内どおりにJR渡波駅まで歩くに如くは無しという次第なわけです。
で、渡波駅を通るJR石巻線がこれまた1時間に1本あるかないか…くらいの本数ですので、駅前を通って石巻市街へ戻るバス利用ということになり、そのバスに間に合わなくなるかも云々というが事の次第なのでありますよ(ここまで細かく説明する要はないのですけれど、笑)。
てなことで、渡波駅前まではしばしの歩き。サンファンパークを後にして山下りを終えますと、ひたすらに平地歩きとなります。ほどなくして往路に降車した汐見台公園入口バス停近くに到達し、先には横目に見て通り過ぎた万石橋を渡り越します。道は橋を渡ってひたすらに直進すれば渡波駅ですので。
橋のたもとには鹿を象ったレリーフが飾られていますけれど、往路に付近の解説板で見たように古来信仰対象である金華山への参詣道にあたっていて、金華山にはたくさんの鹿が生息している(3000~5000頭とも)ことが関わっておるのでしょうなあ。そんな地元の信仰との関わりを示す一方で、橋の途中にはこんな装飾もありまして。
金華山への参詣道はサンファンパークへの道でもある現在、支倉常長のレリーフがあるのも宜なるかな。ところでこの万石橋は現在工事中でして、耐震補強のためということですけれど、ご覧のとおりに水路の先は直接に石巻湾、つまり外洋につながっていますので、いかにも津波の遡上してきそうな地形ではなかろうかと。上の写真の右手には何もない更地が続いていて、おそらくは先の震災で根こそぎにされてしまったのではなかろうかと…。
とまあ、そんなことに思いを馳せつつ万石橋を渡り越して進んでいった道すがら、ふと道端の電柱に目がとまったのですなあ。そうだっけ、女川はこの近くなのであるなあと。
だいたい、目指して歩いている渡波駅はJR石巻線の駅であって、石巻線は東北本線小牛田駅から石巻を通り、女川まで通じる路線だったですものねえ。ちなみに、今回の旅がらみで読んだ西村京太郎の『仙石線殺人事件』にも女川に触れている箇所がありましたっけ。
仙石線は、終点が石巻だが、そこから先は石巻線が通っている。乗り換えて終点の女川までいくと、女川の町は地震と津波で大きな被害を受け、そのことで、全国的にもしられている。…何しろ、その時、女川の町を襲った大津波は、十六メートルもの高さに達し、一瞬にして、町の八割に甚大な被害を与えたといわれている。
女川もまた津波の被害が甚大であった…てなところで見かけた「女川原子力PRセンター」へと誘う電柱看板…うむむ感が湧いてくるわけでありますよ。2011年の震災で停止していた東北電力女川原発は10月29日に2号機を再稼働させ、機器のトラブルで一時稼働を止めたりしたものの、11月15日からは発電を再開していると、このそぞろ歩きをしていたのはその頃だったのですね。
旅の間にホテルで見かけたニュースでは、周辺住民が避難計画の不備を主張して女川原発2号機の運転差し止めを求める裁判のようすが報じられたりも。結果としては住民側が敗訴しているのですけれど、「不安、不安といってはきりがない」てなことでは収まらないでしょうなあ。まあ、女川町にも女川原発にも立ち寄ってはいませんから、地形のことに自信をもってあれこれできませんですが、おそらくは水利の関係で海に面していることでしょう。一朝、事あれば津波に洗われること必至ではなかろうかと。
迫りくるのが目に見える津波ばかりか、周辺住民にとってはどこにどう飛散するか分からない放射線のことも考えたりすれば、福島の悪夢が浮かんでしまうのは致し方のないところですし、国や東電(女川は東北電力ですが)に言ったこと、やったことは「いくら安全ですと言われても信用できない」と思わせるだけのことだったでしょうし。
かような思い巡らしもあったことで、いつの間にやらJR渡波駅まで歩き通しておりましたよ。新しいものと見える駅舎はおそらく震災後の新築でしょうし、低い円筒形の形状は津波除けの意味合いもあるのかなと思ったり。だいたい波が渡ると書いて渡波(わたのは)という地名からして、波が寄せてくるようすを思い描いてしまいそうですが、どうなんでしょうかね…。女川駅は4つ先になりますが…。
と、いささか余談が過ぎて石巻市街へと戻るというだけのお話がすっかり長くなり。最後の最後に本来の流れに沿ったことを少々。渡波駅に到達して、(列車は来ないので)駅頭でバス停を探したところ、一向に見当たらないのですなあ。駅前などは一目でぐるりと見渡せますが、それらしいものは皆無。さらに、尋ねてみるにも人がおらない…。
そのうちに、「ああ、鳥取空港連絡バスの松崎駅前というバス停が駅前ではなくして、駅から少し離れた広い通り沿いにあったのと同じパターンであるな」と思い至り、そっちの方向で探してみれば「あった、あった」と。なんとか乗り遅れずに、石巻市街に戻ってくることができたのでありました。めでたし、めでたし。