さてはて、最後に見たのはいつだったか…と、ブログ内検索の結果によりますれば2019年5月の「ワルキューレ」であったとは。コロナ禍の間を通じてずぅっとご無沙汰しておったのですなあ。何がといって「METライブ」、要するにニューヨークにあるメトロポリタン歌劇場の公演を映画館で見られるというものでして、日本の場合は時差の関係でリアルタイム配信ではないですけれど、今回の上映はアメリカの土砂降りが祟って、配信が何度か途切れたことをMET総裁のピーター・ゲルプがインタビューのときに謝っている部分がありましたですねえ。

 

 

と、それはともかく、今回は埼玉県民の友人とも連れ立って鑑賞ということで、MOVIXさいたま新都心というところまで出かけてみたのですけれど、いやはや駅の東口に広がる一帯は絵に描いたような再開発エリアでありましたよ。「コクーンシティ」と名付けられた商業施設中心の展開で、(県民の友人に「ここは元々なんだった?」と尋ねるも「???」でしたが)どうやらシルクで知られる片倉製糸(片倉工業)の事業所跡地であると知ればようやくにして「コクーンシティ」命名の謎が解けるというものですなあ。

 

という余談もまたともかくとして、今回のMETライブ、演目はシャルル・グノー作曲の歌劇『ロメオとジュリエット』でありましたよ。原作は言わずと知れたところですけれど、日本では一般に(英語訳からの関係でしょうか)『ロミオとジュリエット』として知られるシェイクスピアの戯曲。まあ、イタリアの自働車メーカーが「アルファロメオ」であって「アルファロミオ」とは言いませんので、「ロメオ」の方が適っているのかもですね。

 

ちなみに上のフライヤーに見る画像は今期(2023-24シーズン)の掉尾を飾る『蝶々夫人』から持って来られたものですので、『ロメオとジュリエット』とは関わりなく…とは蛇足ですが、数々の寄り道の末にようやっとグノーのオペラのお話に(笑)。

 

オペラとしての『ロメオとジュリエット』は初めて見た(聴いた)ですが、これってオペラ初心者には打って付けの作品であるなと。なんといっても、ストーリーはすでによく知られたもので、話が分からなくなるといったところがおよそ無い。むしろ、知れ渡っていることを前提にして、話を掻い摘んで(掻い摘みすぎの嫌いはあるかも…)ありますのでね、非常にすっきりした進行でもあろうかと思うところです。

 

家族同士が敵対する中、ひと目見て恋に落ちるロミオとジュリエット、すぐさま駆け落ち路線を志向し、片方が「死んでしまった?」と見るや、その場で直ちに後追い自殺を図るという、ことごと全てが激情的であるあたり、オペラのフォーマットに馴染みやすい話とも言えましょうか。バルコニーの場面は当然にして用意されていますが、ひそやかに囁きかわす(夜中で皆寝静まっている中でしょうから)にも感極まって朗々と歌ってしまう、まさに声高々に!なのですが、その辺がまたオペラなのだよと知る機会にもなりますな(笑)。

 

加えて、音楽がとっても古典的で落ち着いているので聴きやすいわけです。世代的にはベルリオーズよりも15歳くらい下になるにもかからわらず、尖った要素はおよそありませんし(ま、ベルリオーズが時代に先駆けていたというべきでしょうかね)。歌の方も、ソロ、デュオ、それに合唱くらいなところで、凝りに凝った重唱といったバリエーションが無いのもまたビギナーには打って付けと思えるところです。

 

ところで、オペラ『ロミオとジュリエット』を映像で見て来た…ということに対して、「じゃあ、当然に美男美女が演じていたのであるか?」とはちと他所から尋ねられたこと。まあ、オペラの場合、この演目に限った話ではありませんが、誰がどう見てもなるほどヒーロー、ヒロインというキャストができるとは限りませんですなあ。今回のMETプロダクションでは、比較的にこれからの期待の星的なところを当てて来たようでして、(さすがに原作のように十代の登場人物たちと見るのは難しいものの)爽やかさを伴ってもいましたし。ジュリエット役、ソプラノのネイディーン・シエラは本当にきれいな歌声でしたですよ。

 

で、先の問いかけにある「美男美女がでるのか?」ということにつきましては、おそらくですが、オペラを好んでご覧になられる方々は歌唱にこそ聴き入ってそのあまり、視覚的な要素はマスキングされるかもね…と応えておきましたが、「そうか…」という応答でありましたよ(笑)。ま、今回はオペラ初心者の友人同行者は重厚な合唱含め、それなりに堪能していたようですし、半可通手前くらいの微妙な立ち位置にある個人的にも満足して帰ってきた次第。マスキング成果とは言いませんが(笑)。