5時間あまりを映画館で過ごして…と言えば「ああ、2本見たのね」と思うところながら、
途中休憩2回を含めて全編で一本となりますと、大した長さでありますねえ。
METライブで見るワーグナーの「ワルキューレ」なのですけれど、
これは「ニーベルンクの指輪」四部作のうちの2作目。全部見ると、大変なことになりますなあ。
全くもってオペラ通でも無い者にとって、この舞台でとにかく目を引くのは
演出のロベール・ルパージュが手掛けたという巨大な舞台装置でありますね。
「シルク・ド・ソレイユ」などの演出もしていると知れば、「なるほど」と合点がいってしまいそうです。
関係者が「マシン」と呼んでいる大型装置は、大きな角材を立てて24本並べ、
横に貫く軸に固定して回転(24本それぞれが自由に動く)でき、
しかも軸受け自体も上下させられるので、実に利用法が多様なのですな。
と、この不十分な説明では実体が掴みにくいでしょうから、
METライブの公式HPで映像をご覧になっていただければと思うところですが、
このマシンを場面場面でどんなふうに使うのか…てなところにばかり
目が行ってしまったりしたわけです。
静的な利用では背景にプロジェクトマッピングで映像を映し出す背景として。
動的には「ワルキューレの騎行」で8人それぞれが馬にまたがっているように
シーソーのように動かしてみせるものとして。
実は「ワルキューレ」を見るのは後にも先にも初めてだったものですから、
他の演出ではワルキューレたちが騎行する姿をどう見せていたのだろうと
思ったりしたものでありますよ。
もっとも、舞台芸術はどれだけリアルかを云々するよりも、
見る側の想像力をどれだけ引き出せるかの方が肝心だとは思いますけれど。
とまあ、そんな「マシン」が幕開きには24本大人しく?並んでいたわけですが、
いざ動き出したときにふと「ああ、地殻変動のようだな。地層が立ち上がって…」てなふうに
思ったところはあながち的外れでも無かったとは、演出家へのインタビューで知れたのですな。
(舞台の休憩時間に映された演出家へのインタビュー映像がありましたので)
なんでも「ワルキューレ」演出のイメージを掴みかねている中で、
ワーグナーが指輪を書くにあたって参考にしたものに北欧神話がありますけれど、
その淵源をたどればアイスランドの「エッダ」に当たることに気が付いたと。
このことと、そうした伝承を培ったアイスランドの大地とを考え併せ、
地殻に関する現象のデパートのようなアイスランドを意識して、
どうやら「マシン」の発想に繋がったようなのですから。
…と、そんなあたりにばかり目を向けていては本末転倒でもあるところながら、
予め話だけは知っていた「ワルキューレ」。
いざ見てみると、初めての者の目にはどうも展開が冗長な気も…。
ですが、METライブを見て来た経験だけでも、歌劇場聴衆の盛り上がりようは
これまでに見たどの作品よりも感じられるところでして、
それだけワーグナーに入れ込む人たちが多いということでもありましょうか。
そのあたり、もそっと経験を積んでみないことは何とも言えないなと思いましたですよ。