さてと午後のひとときに瀬戸のやきものの里を巡り歩いて、だんだんと夕刻に。この日の最後に訪ねたのは瀬戸市新世紀工芸館なのでありました。

 

 

「新世紀」というだけあって、染付工芸館のように古い窯元の建物を利用するでなしにレトロ・モダン感を呈した建物ですな。こちらでも展示棟、交流棟、工房棟とさまざまに瀬戸焼の魅力を伝える施設があるようですけれど、日が傾く時間も時間ですので展示棟の企画展だけは押さえておくことに。

 

訪ねた当日に開催されていたのは、愛知県陶磁美術館×瀬戸市新世紀工芸館共催事業 「アーティスト in 出張陶芸館 阿曽藍人」展で…といっても、とうに会期は終了(2023/11/5まで)してしまっているのですけれどね。

 

 

ともあれ、展覧会の「ごあいさつ」では「出張陶芸館」の趣旨の紹介がこのように示されておりました。

「アーティストin出張陶芸館」は、瀬戸・常滑や東海地方で活躍する陶芸家や現代美術家等を招聘し、参加者との交流を深めながら行う楽しいやきものづくりの体験、そして講師の持つ特別な技術を体感することを目的とした愛知県陶磁美術館の企画です。

ちなみにやきもの関係を巡って瀬戸エリアにでかけるのであれば、愛知県陶磁美術館は必須の立ち寄りポイントであるところながら、折しも改修工事で休館中とは…。なかなかに悩ましい問題であったのですが、2025年4月予定のリニューアルオープンまでとても待っていられないと繰り出したものの、やがて訪ねずにはおかれまいとも思っておりますよ。

 

と、そんなことはともかくとして、今回展示の作家の紹介にも目を向けておきましょう。

招聘作家に岐阜県美濃加茂市を制作拠点とする阿曽藍人氏(陶芸家)をお迎えしました。阿曽氏は土との対話、そして土がやきものへと変貌をとげるプロセスに丁寧に寄り添う中で自身の表現を展開し、陶板や球体などミニマルな形態をはじめとした低温焼成による多くの造形作品を国内外で発表されています。

 

という作家の作品が並べられた2階展示室がこちらです。なるほど、球体と陶板…ですなあ。球体の方は常滑のINAXライブミュージアムで体験教室の行われている「光るどろだんごづくり」を思い出したりもします(といって、実際にやってはいないですが)が、あちらは「粘土の球を削り、色をのせ、磨いて、光る球体に仕上げてい」くものであるのに対して、こちらはやはり「やきもの」なのですな。よくよく表面を見れば「ああ」と。ぴっかぴかに光るどろだんごにも驚かされたですが、こちらはこちらでそれぞれに微妙な色合いの違い(土の違いが出るのでしょう)を持つ玉が並んでいますと、太陽系の惑星配列に思いを致してしまったりも。

 

 

球体が並んでいる。たったこれだけのことで、壮大な宇宙を思ったりするとは人間の想像力は自由ですな。だからこそ「芸術」が生まれ、ずっと続いてきているのでしょうけれどね。陶板の方もまた想像の背中を押すものでありましたよ。

 

 

 

 

ともすると、泥はねがこびりついて固まっただけ…のようでありながら、これが「美」とも受け止められる壁面になっている(と知覚する)のが何とも不思議な気がしたものです。

 

で、1階展示室の方は作家が行ったワークショップ「瀬戸の土で陶板をつくろう」に関わる記録映像や実際に焼いた陶板が飾られていたり。元来、瀬戸の土はやきものに向いていたのであろうという先入観がありますけれど、ここで使われたのは果たして「向いた土」であったのかどうか。左側が焼成前、右側が焼成後となりまして、思いのほか色合いの深さに違いがでるものでありますねえ。

 

土を砕き、水を加えることで聞こえる音に耳を澄ませる。そして参加者それぞれの触覚を携えながら形作られた「陶板」から、土の違いや焼成過程で現れる質感と色彩など、やきものへと変貌を遂げる「土」にまつわる多くの表情と気付きに出会うことができました。

ワークショップ報告にはこんなふうにありましたですが、「やきものへと変貌を遂げる土にまつわる多くの表情」とは、結果を見るだけでも追体験できるような気がしたものでありますよ。どんどん新しい技法が生み出されてきた「やきもの」の世界にあって、至って素朴に「土を焼く」というだけでもさまざまなバリエーションが展開する。今さらながら改めて、そんなふうに思いつつ眺めた瀬戸市新世紀工芸館の企画展でありました。