予て何かと図書館(それ自体)に興味を示しているところがありますだけに、たまたま見つけたギャラリーA4(エークワッドと読むという)の『本のある風景 公共図書館のこれから』展を見てきたのでありますよ。

 

 

日常的に近隣の図書館を利用する頻度が高い方であるとは思ってはおるものの、その利用は基本的に本の貸出を受けるに留まっておりますな。さりながら、図書館の機能は(これからの話は先に譲るとしても)これまでに想定されていただけをとっても、そんな無料貸本屋の範囲ではないとは言わずもがなでしょうか。ひとつ、レファレンス・サービスをとっても、情報へのアクセスの手助けという専門業務は図書館の真骨頂のひとつでもあるわけで。

 

ただ、情報へのアクセスの手助けといっても、時代の移り変わりの中では単に本探しに留まらないものになってきておりますな。資料にあたるにしても、紙媒体と限らずに、web上で閲覧するデジタル媒体であったりして、それにアクセスする前提としてはインターネットを利用できるデバイスもなくてはならない。しばらく前に見たドキュメンタリー映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』では、インターネットにアクセスするためのデバイス自体を貸し出すことまでしていたわけで(もはや図書館内にPCコーナーが設けられているだけではないという)。

 

 

そんなこんな思い巡らしもしつつ、ギャラリーA4の展示会場へと入り込んでみることに。そこではまず「図書館とは…」から始まりますが、いわゆる公共図書館(何かしら専門的な蔵書方針や目的を持つものではなしに、広く一般の用に供する図書館ですね)に対する最新の考え方として、昨年2022年に採択されたという「IFLA-UNESCO公共図書館宣言」というのが紹介されておりました。

公共図書館は、その利用者があらゆる種類の知識や情報をたやすく入手できるようにする、知識の情報センターである。それは知識社会の不可欠な構成要素であって、ユニバーサル・アクセスを実現し、すべての人に情報の意味のある利用を可能にするという責任を果たすため、情報伝達の新しい手法を継続的に取り入れる。また、知識の生産と情報や文化の共有・交換に必要な、そして市民の関与を推進するための、公共スペースを提供する

展示としてはこの後に、(おそらくは)この宣言を意識して運営に当たっているであろう国内外の図書館を紹介するコーナーが置かれていたのですな。

 

 

国内の事例として取り上げられていましたのは、東京の武蔵野市立ひと・まち・情報創造館「武蔵野プレイス」、石川県立図書館、島根県隠岐郡海士町が取り組んでいる「島まるごと図書館」の3つ。武蔵野市の場合は、さまざまな目的に適う場所とすることからもはや「図書館」という看板を下ろしてしまったようですね。石川県立図書館の方は昔ながらの名称ながら、グレートホールと呼ばれる吹き抜け大空間に配された開架書棚の並ぶ姿が今風であろうかと。オーバルな形状で緩やかに弧を描く空間というのが昨今の流行りなのでありましょうか。予備知識無しで石川県立図書館の建築模型を見ると「コンサートホールであるか?」と思ってもしまいそうです。

 

 

さりながら建物の独特な形というのは(莫大な建設費を投じさえすれば)ありがちなことながらも、発想のユニークさ勝負しているのが隠岐の事例ですかね。日本海に浮かぶ島の人口は2300ほどであると。当然にして、税収が頼りの公共図書館に大きな金額を投じることはできないでしょうな。仮に巨費を投じて立派な中央図書館を建てたとしても、島の各所から便利に使ってもらえるとも限らない。かといって、島の各地に公共図書館を設けるのもまた難しかろう…という中で「島まるごと図書館」が構想されたようで。展示解説にはこんなふうに紹介されておりますよ。

海士町の「島まるごと図書館」では、飲食店、公民館、診療所や個人宅まで、様々な生活の場が図書館の「分館」になっている。…島内に点在する分館のほとんどは分館側からの要望で開設、現在24か所まで増えた。…島内の保育園、小中高校を中心に地区公民館や港、診療所など人が集まる既存の施設を「分館」と位置づけて整備し、それらをネットワーク化することで、島全体を一つの「図書館」としている。

 

それぞれの分館にはさほど蔵書があるでもないでしょうが、近くにあることは訪ねやすいわけで、効果のほどはひとつ、島民一人当たりの年間貸出数に表れていようかと。島根県内の町立図書館における平均値が4.7冊であるのに対して海士町では7.1冊というふうに(2022年度)。

 

これまでにもあった施設に新たな要素が発展的に付加される場合、早い話が新築・改築による「箱モノ」頼みとなることが多い中で(引き続き紹介される世界の図書館事例もまた同様かと)、ハードでなしにソフトで対応しようという柔軟な発想は注目されていいことのように思うところです。それが利用面で一定の効果を挙げていると考えられるのであればなおのことでありますね。

 

「“図書館のない島”というハンディキャップを逆に活かし…」(海士町中央図書館HP)という逆境をバネに生み出された構想のようですけれど、とかく硬直化しがちな行政の世界にあっても、しなやかなバネの発想が出てきたのですなあ。そのことに関心してしまうのでありましたよ。