ちと書きはぐれておりましたですが、先日両親のところに立ち寄った帰り、東京・江東区東陽町にありますGallery A4(ギャラリー エー クワッド)に立ち寄ったのでありますよ。竹中工務店東京本店1階の片隅にあるギャラリーでして、何度か覗いたことはあるも、本業が建築ですのでその関係が多いと思いきや、今回は「食」との関わり。どうやら「衣食住」に関することは対象のようですな。開催中の展示は「発酵と暮らし ― 人も海も土も森も…すべてはつながっている ―」というものでありました。

 

 

「発酵」と聞きますと、まずは味噌や醤油といった発酵食品を思いうかべるところでして、展示でもその関連には触れられておりますけれど、注目すべきは発酵の仕組みに関わる微生物の働きでしょうか。発酵食品でいえば、麹菌であったり、乳酸菌であったり、酵母であったりと。

 

醤油蔵や味噌蔵などでは、その場その場に特有の微生物が棲んでいて、味わいの違いを醸すものともなっているように、微生物はどこにいても当たり前なのですなあ。人間の体でも「腸内フローラ」といった言葉が聞かれるようになって、微生物とは共存関係にあることはすっかり知られたことであろうかと。

 

されど、展示解説に曰く「親指の先を見てみてください。この小さな面積に、実は1億ほどの微生物がすんでいるといわれています」となってきますと、「そうであったか…」と。そして、指先ということで考えたときにともすると、なんでもかんでも「黴菌なんじゃね?」と感じてしまうかもしれませんですねえ。そんな思いが、昨今のコロナ禍と相俟って、ひたすらに消毒、除菌へと向かわせたりもするのかもしれませんけれど、場合によっては(人間にとってという意味で)良い微生物も悪い微生物も一緒くたに退治してしまうとすれば、ある意味、これは環境破壊的な行為なのかもしれんと思ったりするところです。

 

 

展示の章立てには「土」と発酵、微生物との関わりも取り上げられて、知る人ぞ知る「菌ちゃん農法」のことが紹介されておりましたよ。ざっくり言って「土の中の菌ちゃん(発酵菌)の環境を整えることで、ミネラルを含んだ元気な野菜が育ちます」てな取り組みなわけですが、「なぜ元気野菜には虫がこない?」という点の説明には「ほお、そうであるのか…」と。

「菌ちゃんふぁーむ」で育った作物は、栄養が豊富で外注被害もほとんどありません。元気な野菜は「セルローズ」「ファイトケミカル」など高分子の成分をたくさんつくります。虫は高分子の成分を消化・吸収できないため、虫が寄りにくくなります。

となると、農作業で腐心すべきは農薬などによる防虫作業ではなくして、要するに土づくりということになるのでしょうか。農家の人たちはもちろん土づくりには留意しているとは思うのですけれど、堆肥を使って土の発酵を促すような形は、農業の大規模化によって手間以外の何ものでもなくなって、簡便な代替手段があればそちらに流れるということがあったのかも。「地産地消」が珍しくなくなった中では、かつての大規模化に反して多品種少量生産を、小さな単位で行う農業も多くなっておりましょうから、元気な野菜への関心は一層高まっていくかもしれませんですね。

 

 

ヒトが生きている世界には微生物との共生が当然のようにあって、敢えてそれを根こそぎ排除しようとするのは方向性として正しくないのかも。発酵食品作りにあたっても、扱いやすく、また衛生面の配慮からも金属製の貯蔵器が用いられたりしていますけれど、そこを敢えて微生物との共生を意識して、木の樽を使う例などの紹介もありましたが、もはや樽作りの職人は風前の灯状態にあるようで。今さら言うまでもないですが、歴史は常に「良い」方向にばかり向いていたわけではないのですなあ。

 

微生物の働きの結果として、ヒトにとってありがたいものを「発酵」と言い、ありがたくないものを「腐敗」と言うも、どちらも作用、働きとしては同じなわけで、(繰り返しにはなりますが)その悪い方に目を配るあまり、両者を一掃するようなあり方、ヒトの環境をあたかも無菌室であるかのようにすることがいいのだと考えるのは、自然環境に対するヒトおごりであり、思い違いなのでもあろうかと思ったものでありますよ。ま、新型コロナウィルスとの共生は続けたくないですけどね…。