久しぶりに立川まんがぱーくに行ってきました。お目当ては『夜明けの図書館』という作品でして、刊行されている7巻を全て読み切るところまでは(漫画といえども遅読だもので…)至りませんでしたですが、取り敢えず「こういう話であったか」とは知り得たところでして。
先ごろ「図書館」に関わる本を読んだり、『ニューヨーク公共図書館』なるドキュメンタリー映画を見たりとあれこれの思い巡らしをしていた際、このマンガの存在を知ったのでして、ようやっと読むことができたわけですが、版元HPのストーリー紹介にはこんな内容であると。
暁月市立図書館で働く新米司書・葵ひなこ。
日々、利用者から投げかけられる疑問は…「ある写真を探している」「光る影の正体が知りたい」など、難問ばかり。こうした疑問に対し、適切な資料を紹介するのも図書館の仕事。葵ひなこが、迷宮入りしそうな利用者の「?」に立ち向かい、大奮闘する新感覚・ライブラリーコミック。
図書館には必ず備わっていると思しき「レファレンス・サービス」を扱っているのですな。予て「図書館」について思い巡らしたところでは、例えばそこらにある地域の公立図書館でこのレファレンス・サービスがどれほど利用されているものか…とは思ったものでして、それだけにニューヨークの図書館で次々とレファレンスのカウンターに数々の問い合わせが寄せられるようすを(映画で)見て、新鮮な気がしたものなのでありました。
が、こうしたマンガが現れるということは日本でもそれなりにあレファレンス・サービスの利用者はいるということでもありましょうか。もちろん、研究機関や大学の図書館あたりでは数多の問い合わせがありましょうけれど、あくまでそこらの公立図書館、マンガの舞台になっているような市立図書館でも、そうなんですかね…。
ともあれ、マンガそのもののお話です。主人公のひなこは「3年もの就職浪人の末、高倍率のなか奇跡的に暁月市立図書館に司書専任職員として採用」されたという設定ですけれど、司書資格を持つ希望者の中で専任職員=正規雇用で採用されるのに3年の就職浪人というのは、こう言ってはなんですが「まし」な方なのかもしれませんですね。なにしろ図書館業界(という言い方が適当かどうかは分かりませんが)では非正規雇用によって人員配置をする流れが非常に顕著になっているものと思いますし。
まあ、そんな環境ですので手に入れた司書専任職員という仕事に意欲を燃やすひなこですけれど、分けても「人と本を繋げるレファレンス・サービスに命を賭ける」姿が描かれているわけですね。ストーリーのありようとして人情がらみと言いますか、そうした方向性が出せるのはレファレンスを通じてという意図でありましょう。おそらく作者(と担当編集者)は相当に実在の図書館に取材してレファレンスの実際に接し、使えるネタ(もちろんアレンジして使うのでしょうけれど)を拾い出してきたのではなかろうかと。ですから、現実にレファレンスに頼る人というのは確かにいるようんですな。
さりながら、このお話の登場人物のひとり、市役所から事務担当として配置されている職員(27歳男性)の曰く、経費削減の折からレファレンスに人員を割くのは無駄なのではないか、なんとなれば今はネットでなんでも調べられるわけだし、てな発言も聞かれるのでありますよ。個人的にもそんな思いが全く無いわけではないような(無駄だという点ではなくして、ネットでかなり調べられるという点で)。
ちなみに、どんな問い合わせにひなこが対応したのかというあたりを抜き出してみますと、「(地元の町の)80年前の郵便局舎の写真を探してる」、「(地元の)橋を満月の夜に渡る時、振り返ると大切な人が消えてしまう、という都市伝説のような噂の真相を知りたい」、「(動物の物語ながら、何の動物が出ていたのかも忘れてしまった)昔、好きだった絵本を探してほしい」、「(認知症を患った)友人のために(彼女が口ずさんでばかりいる)小唄を探したい」…てな具合に、なかなかネット検索では答えを探し出しにくいものが並んでいるという。もちろん物語としては何らかの糸口が見つかって解決に至るも、現実にはむちゃぶりとしか思えないものでもありましょうかね。
とまあ、言われてみればなるほど的に、人それぞれに調べたいことがあり、調べる術を知らない(単にネット検索では答えに至らない)ことってあるのだなあと改めて思い至ったような次第です。が、問い合わせを受けた以上、適切な答えを返したいと考えるのは(図書館員ならずとも)人情というものながら、どこまでやるのかはこれまた人それぞれになりましょう。おそらく(と想像するしかありませんが)ひなこの場合には熱意のあまりに突っ込みすぎなのでは?とも思えたり。そのくらいでないと、お話として面白くなりはしないのでしょうけれどね。
個人的には図書館のレファレンス・サービスを頼ったことがありませんで、(今ではもちろんインターネットも使いつつ)自分で調べて分からないことはそれ以上追わないたち、つまりはこんなところでも「足るを知る」を実践してしまっているわけですけれど、世の人たちがみなそれで済むわけでもないでしょう。やっぱりレファレンス・サービスは求められている図書館機能ということになりましょうか。ただ、直接的に答えを見つけてやるのでなくして、調べ方のヒントを情報提供するといった形もあるような。でも、これではやっぱりお話にはなりませんな(笑)。