しばらく前に覗いた展覧会のことを書き洩らしておりまして、すでに会期は終了(2023年9月24日まで)しておりますので、さくっとだけ触れておこうかと。

 

 

今月の頭にヴィジュアル・オルガンコンサート@東京オペラシティ・コンサートホールに出かけた折、会場内の片隅に同じく東京オペラシティ内にあるアートギャラリーで開催されている展覧会の割引券が置かれているのを発見したのですな。全く知らない作家ながら、フライヤーにあしらわれた作品を見る限り、なんとはなし「そそられる」感があったという。ジャングルジムを巨大化したような建造物、はたまたL.A.のワッツタワーを彷彿させる奇想建築、両方がないまぜになって生じたそそられ感でもあろうかと思ったところです。そんなところから(割引券に釣られて、笑)出かけたのが「野又 穫 Continuum 想像の語彙」なのでありました。

 

で、会場に入り込んでみますと、そそられ感が弥増すことに。なにしろ奇想建築の絵画や立体作品で埋め尽くされておりまして、時にブリューゲルの『バベルの塔』にも似た重厚さを湛えたものや、時にベックリンの『死の島』を思わす自然景観(の中に建造物)が描かれたものがあったりしたもので。それでも、最も多いのはフライヤーに見るような鉄骨むき出しの張りぼて的建築ですかね。これを、先に巨大ジャングルジムと申したですが、まさに鉄パイプを組んだだけのジャングルジムは、子供にとってさまざまな見立てで秘密基地にもなりうるもの。それが巨大な形でそこにあるとなればわくわくしない方がおかしいような(ちと、盛り上がりすぎでしょうか)。

 

ちょいと前の新聞で見かけたところによりますと、公園(すぐご近所の児童遊園的なるもの)の遊具がどんどん減少しているのであるとか。要するに「危険」であるということで。これに対して、自分が子どもの頃は…などとすでに半世紀近くも前のことを言い出しても詮無いところですけれど、公園で遊んでいて、あちこちずいぶんと怪我をしたものです。もちろん致命的なものではなかったからこそ、今があるわけですが。

 

ちとざっくりした言い方になってしまいますけれど、公園の遊具に限らず、危険の可能性を察知した親や大人の側が常に予防線を張ることに必死になっているところが昔と違うところでしょうか。もひとつは、公園の遊具が単純なものから複雑なものに代わって来ていて、その分、危険が予見しにくくもなっているような。

 

ここまでのところで遊具の減少に対してネガティブな印象を持っているように受け止められるかもですが、実のところ、遊具が無くても子供は遊べるというのが、昔の子どもの実感でしょうか。今のようにお楽しみとしての完成形を与えられる状況ではありませんでしたので、遊びは自分たちで作り出すといった感じでしたし。もしかすると、危険回避の先読みと反対ベクトルで、こんなあんな遊具があると子供は楽しいのではないかという先読みの結果が凝った遊具を生み出したのかも。

 

ただ、子どもの遊び心、想像力は本来豊かなもので、単なるジャングルジムでも滑り台でも、見立てによっては秘密基地にもなるようなところがあろうかと思うわけで、さらに言えばそれは備え付け遊具でなくても、子どもはさまざまな見立てが可能ですので、何も遊具に頼らなくてもとは思うところです。ただ、それにしても遊具を取っ払って、ただの平地ではちと想像力を働かせるスイッチも鈍ろうかというもの。少々の築山など起伏があるだけでもいいような。もっとも、築山ひとつとっても、転げ落ちたらどうする?てな話になるのかもしれませんですが…。

 

とまあ、すっかり展覧会から離れてますが、展示の数々から漂うレトロ感、この辺がまた子どもの頃を思い出させるトリガーだったのかもしれんなあと。鉄骨むき出し建造物にレトロ感を抱くのは、ロンドン万博のクリスタル・パレスのような建造物を思い出させるからでもありましょうか。ただ、クリスタル・パレスが鉄骨組みガラス張りであったことを考えますと、昨今の新しい高層ビルなどはかつてもコンクリートの箱モノというよりは外壁がガラス張りというようになってますですね。むしろこの鉄骨むき出し建築はレトロどころか、最新建築に近いとも言えましょうか。

 

それでも、作品の中にはおよそ人物が描き込まれていないものですから、そこにはディストピア感も漂う。近未来的建築かも知れないところが、その先に何かしらが起こってディストピア化した中に残った建物を未来目線から眺めているという、未来から過去を眺めたときのレトロ感だったりするのでしょうか。奇しくもそのレトロ感は単純に今現在から振り返る過去を眺めるレトロ感とも、感覚的に近いものなのかもしれませんですね。

 

話はあっちこっちしましたですが、割引券のおかげでいろいろと思い巡らす時間を得た東京オペラシティ・アートギャラリーの展覧会なのでありました。