神奈川県立相模湖交流センターを訪ねたのは併設アートギャラリーで開催中の展覧会を見るのが目的だったのですけれど、館内には「相模湖記念館」なる施設もあり、こちらもついでに覗いてみたのでありますよ。相模川水系では少々下流にある津久井湖も城山ダムによってせき止められた人工湖であるわけですが、相模湖はあまりに観光地化(何しろJRの駅から歩いてアプローチできますのでね)されているだけにうっかり失念しがちながら、こちらはこちらでやはりダム湖なのですよねえ。

 

 

なんとなく照明が落とされているようでもあって「やってるの?」という雰囲気ではありましたが、津久井湖の方にあった「津久井湖記念館」が建物も展示の設えも大層年季の入った感じだったのに比べますと、各段にしゃれた施設ではありましたですよ。

 

一般にダム湖が作られるときには、必ず湖底に沈むことになってしまう集落の反対があって、その記憶が失われないようにと記念館の展示には語り継がれる意味合いが込められますですね。こちらでも同様に反対運動の関係書類が展示されていましたですが、これに加えてこんな説明も。

相模湖は、住み慣れた家や思い出を相模ダムの建設のために提供してくださった地域の人たち、ダム建設に従事していただいた津久井郡内の住民、学徒動員、在日朝鮮人及び朝鮮人強制連行労働者、中国人連行労働者など延べ360万人の人たち、そして今も見守り続けている地域の人々の情熱に守られて、力強く鼓動を続けています。

相模ダムの着工は昭和15年(1940年)で、昭和22年(1947年)に竣工するまでにはどっぷり戦時下であった時期が含まれますので、その頃の負の歴史が刻み込まれていたのでしたか。おそらくはここの工事ばかりの話ではないでしょうけれど。ちなみに「力強く鼓動を続けています」というのは、竣工後65年以上経った今でも神奈川県民にとっての水がめであると同時に、電力供給減ともなっていることを指しているのでしょう。経年劣化等により老朽化が進んでいるところながら、2019年度から30年の長期計画でリニューアル事業が行われるとは、まだまだ活躍してもらうということでありましょう。

 

 

ただ、展示の特徴として、津久井湖記念館は湖底の村の恨みが色濃く出ていましたが、こちらの方は観光地というのか、東京まで中央線一本で出られるという土地には新しい住民も多いからなのか、子供たちにダムの仕組みなどを理解してもらえるような、遊び心のある工夫がたくさんありましたですよ。また、記念館のすぐお隣にある食堂では「ダムといえばこれ!」というメニューが用意されており、やっぱり食してしまうことに。

 

 

相模ダムカレー、500円(税込)なり。今どき何と良心的な価格設定でありましょうか。安いですよねえ。ルーには「相模湖に浮かんでいる流木と、わかさぎなどをイメージし」たというトッピングがありますけれど、わかさぎ代わりの煮干しが浮いているところは、「魚が死んでる…」みたいな印象が無きにしもあらずですなあ。ただし、おいしかったですよ。窓辺からは相模湖が望める点もいいですよね。

 

 

てな具合にお腹の貯水量を満杯にしたところで、やっぱりここまで来たのならダムを見に行ってしまいますよねえ。相模湖記念館のある交流センターからは、歩いても程ないところにあるのですし。

 

 

ダムもあちらこちらで見てますけれど、ここの印象はとても堰き止めてる感が強いとでもいいましょうかね。老骨に鞭打って堰き止めているわけですから、そりゃ、リニューアルも必要だと感じた次第でありますよ。

 

 

で、堰き止めている反対側、本来の川筋はこんなに下の方になります。ダムに行くたびに思うのですけれど、プチ高所恐怖症と言いながら何で行ってしまうかなと(笑)。この写真を撮るのに下を覗き込んだときも、実は足がすくみっぱなしでして…。

 

 

ところで、ダムカレーを食した食堂のおばちゃんが「駅に戻るなら、その途中に…」と教えてくれたのはこれであったかと。相模ダムはマンホールの蓋にも描かれているということで。ともあれ、相模湖駅まで戻ってきて列車待ちをする間、駅前商店街にあったお店で土産代わりのこの一本を調達したのですね。

 

 

いかにも観光地にありがちなネーミングになってますが、店の人の曰く「相模湖から一番近い(つまり地元の)酒蔵で作ってもらっている」と。醸造元の清水酒造はなるほど津久井湖近くに蔵を抱えているようで、創業は1751年(宝暦年間)という文字通りの老舗でありましたよ。まあ、古ければいいとも言えないわけですが、酒蔵HPにはこの名前のお酒は載っておらず、しかもラベルには買ったお店の名が刷り込まれているということは、こちらの店が特注で作ってもらっている、つまりはここでしか買えない?ものであったろうかと。すでにちびちびやってみますが、なかなかに芳醇ながら、も少し余韻が長いといいなあと。結構あっさりと後味が無くなってしまって…とは、個人の意見ですが。とまあ、思いがけずもプチ旅のようになった相模湖行きでありましたですよ。