すっかり静岡県水産技術研究所展示室「うみしる」で見聞した話が長くなっておりますけれど、最後に水産加工品に関わるお話を。

 

 

展示パネルに「加工大国 静岡」とあるも、これはるのはまだ遠慮がちでしょうかね。静岡県のHPでは(水産品以外も含めて)「生産される農林水産物の数は1,143品目(県の調査によるようです)と、全国トップクラスを誇り、農林水産大臣賞の受賞数も常に上位を占めるなど、数・質ともに食材の宝庫、いわば「食材の王国」です」と、言っているくらいですのでね。ともあれ、ここでは魚の話に特化するといたしまして、まずは蘊蓄めいたところから。

 

 

先に焼津漁業資料館で見ましたように、マグロにもクロマグロ、ミナミマグロ、メバチ、キハダ、そしてビンチョウマグロなどがありますように、ひと口にサバと言ってもおられないようで。違いを見分けるひとつの方法が背中のもようであるそうな。

 

一般に流通するサバは3種類あるようでして、マサバとゴマサバが日本で獲れるのに対して、タイセイヨウサバはノルウェーサバとも言われるようですので、輸入ものになりましょうか。確かに模様の違いがはっきりしていますですね。で、気になるお味の方は?…ですが、その点には言及されておりませんでした。

 

 

ちなみに「静岡はアジの干物の生産量が日本一」だそうですけれど、アジを一枚開くにしても職人技が発揮されるのであると。なんでも熟練した職人の場合、1枚を10秒で開いてしまうそうでして、使い込んだ包丁は上の写真のように短くなってしまうのであると。最初、愚かにも魚を切っているだけで?と思ったですが、これはもちろん切れ味を保つために研ぎを重ねた結果ですよねえ(笑)。

 

 

静岡といわず、焼津では「なると巻」が特産品であるとか。なんでも「生産者と地元の鉄工場がいち早く製造機の自動化に取り組んだため」「紅と城のすり身をうず巻き状に併せるための口金がついた成形機を開発した」ことが、多いときで全国生産量の9割以上を占めたこともあるほどになったそうでありますよ。成形機のおかげで、いろんな模様の「なると巻」が作れるようになっていて、富士山模様?と思しきものなど、いかにも静岡!ですけれど、やっぱり「なると巻」はのの字ですかねえ。

 

 

ところで昨日は味噌や醤油など、国内各地で味わいが異なることに触れましたけれど、そういえばうなぎの食し方にも関東と関西で違いがあるのですなあ。開き方ひとつとっても違うことはなんとなく知っていましたが、武家中心、商人中心の文化が背景にはあったのですなあ。

 

 

食べ方はともかく確かにうなぎも静岡の名物ですけれど、サクラエビはさらに!の印象が。駿河湾の恵みですなあ。で、ここでの説明に曰く「サクラエビには長いヒゲがある」ということでして、加工段階で取り払われるそうです。まあ、口に入れたときにヒゲが魚の小骨のようにひっかかって食べにくいからでしょうかね。ただ、ヒゲとはいえどもサクラエビ風味であることに違いは無いことから、えびせんなどの風味付けに使われているとか。「やめられない、とまらない」の元はサクラエビのヒゲだったのですな。

 

 

と、ここまでのところは小ネタのオンパレードでしたですが、もそっと突っ込んだ展示解説として「節ってなんだろう?」と。利用の歴史は古くからありまして、説明文にはこのように。

奈良時代に、かつお節の原型と言われる堅魚(かつお)や煮堅魚(にかつお)を税として朝廷に納めていたという記録が残っています。とくに、素干しの堅魚ではなく、先に煮てから乾す煮堅魚を献上した記録があるのは駿河国(静岡県)だけで、現在の焼津で生産されていました。

朝廷への納税とは、いわゆる租庸調の調にあたるものでしょうかね。要するにそれほどに特産品であったわけで。確かに鰹節は神饌のひとつでもありますし、神社建築には鰹木なんつう部分もあるわけで、カツオは古くから珍重されてきたのでありましょう。でもってその鰹節の製法ですが、ここで登場するのが以前にちらりと触れた「手火山(てびやま)式」という伝統の技ですな。

 

 

「煮熟したカツオをセイロ(カゴ)にならべ、炉に積みあげる」ところを火山に見立てたのでありましょう。富士を間近に望む駿河国らしいネーミングかと。「ムラをなくため定期的にセイロの一を入れ替え」るあたりに熟練の職人技が発揮されるのではと想像するところです。

 

さりながら、大量生産には追い付かないきらいがありますので、建物全体を燻煙付け庫としてしまう大規模化が図られたりも。地下で焚く火に近い方が速く乾燥しますので、乾燥の進み具合に併せて上の階へと順次移動させた…となると、おそらくは相当な人手が必要になったことでしょう。これに対しては、焼津独自の技として考え出された方式で省力化が図られたそうですが、解説文を読む限りではどうも省力化のイメージがピンとこず…。

 

ともあれ、そんな製造法でもって生み出される鰹節は、焼津節とも言われるそうな。「かつお節の型には地域ごとに特徴があり、それぞれ焼津節、薩摩節、土佐節と呼ばれています」とは、なんだか民謡みたいですが。

 

この部分の説明に続いて、「とくに焼津節は…縁起物としての芸術性が高く、お祝いや贈りものに重宝されます」と自慢話になってきますけれど、「水技研で焼津鰹節伝統研鑚会により製造されたものが、新嘗祭用として毎年、皇室へ献上されています」となりますと、まあ、得意になって話をしたくなる気持ちも分からなくはないですねえ(笑)。

 

 

とまあ、食に関わる展示のあれこれを見てまいりますと「おなかがぐぅ…」と、昼飯どきを告げてくるわけですけれど、その前にもひとつだけ「うみしる」から通りを隔てて向かいにある施設に立ち寄る予定なのでありますよ。