静岡県焼津の漁業資料館を訪ねて実にざっくりとその展示に触れましたけれど(展示自体が実にざっくりしていたものですから、笑)、あれこれの説明の中でちとカツオとマグロに関することに限って、もそっと突っ込んでおこうかと考えた次第でして。

 

 

まずは漁場ですけれど、カツオ、マグロ、いずれにせよ黒潮に乗って…てなふうに考えてしまうところながら、それはあくまでカツオやビンチョウマグロ(びんなが)の一本釣りに関してなのですなあ。本マグロは太平洋やインド洋のど真ん中までも出張っていかねばならんわけです。となれば、当然に遭難の危険とは常に隣り合わせてありましょう。そういえば、展示物のひとつにこんなのがありました。

 

 

マリアナ諸島が連なる中にあるアグリハン島(展示の説明ではアグリガン島)。この島の沖合で、1965年(昭和40年)、台風による漁船7隻の遭難事故があったのだとか。Wikipediaにも「マリアナ海域漁船集団遭難事件」として一項、立っているくらいでして、「使者、行方不明者208名」に及ぶ大事故であったそうな。

 

日本の伊豆七島から小笠原、硫黄島と南にたどって、さらに南(正確に真南ではありませんが)へと太平洋を分け入っていきますとマリアナ諸島の連なりに行き当たり、点々と島づたいにたどりますと、やがてサイパン、グアムへと繋がっているのですよね。そんな中で、アグリハン島はまさに絶海の孤島ともいうべき、それこそゴジラやモスラがいてもおかしくない?ような島なのでありますよ。展示されているアグリハン島の石は遭難者慰霊で訪ねた島から持ち帰ったものであるとか。とにもかくにも、命がけの職業でありますねえ。

 

と、いささか横道に逸れたお話を戻して、漁法のことです。先にも「一本釣り」という言葉だけは使いましたですが、カツオと言えば一本釣りですなあ(沿海ではビンチョウマグロも一本釣りのようですが)。とにかく豪快な印象は、いかにも黒潮、漁師、兄弟船、演歌…と、また話がずれかかってますが、ともあれイメージは湧きやすいものであろうかと思うところです。

 

 

疑似針の説明を見てますと、「あぐ」(返しのことですね)が無いものが使用されて、「カエシがないことで、力を入れて釣り上げ、空中で力をぬくと自然に鰹が釣鉤からはずれる」ということなのですが、それにしてもひょいひょいと釣り上げているようで、技が必要なのであろうと想像するところです。

 

 

ただ、技が必要と思しきこの一本釣り、(展示解説では触れられていないものの)今や外国人労働者の存在に支えられているとは、以前TVのニュースか何かで見たことがありますなあ。いわゆる「3K職場」の典型のようになってしまっているのでもありましょうかね。今始まった話ではありませんが…。

 

 

一方、マグロ漁で用いられるのが延縄でありますね。図に示されているのは釣り針を仕掛けた延縄が浮き玉と浮き玉の間隔、およそ300m~350mとあるばかりですけれど、実は海中に投じる延縄の長さは全長で何と!150Kmにも及ぶ長大なものであるとか。それで針の総数が3,000本にもなるのですなあ。縄を投ずる作業だけで4時間も掛かるそうでありますよ。

 

針先に取り付ける疑似餌はこのような。どうやらマグロはイカが大好物のようですな。妙にカラフルなのやキラキラしたのがありますけれど、海中ではこの目立つものが「らしさ」を醸して、マグロを寄せてくるのかもしれません。ちなみに投縄に4時間だったのに対して、挙げるのには10~12時間を要すると。何せ一匹で3mにもなるマグロですものねえ。これまた大した重労働なわけで、カツオの一本釣りと同様にやっぱり外国人労働者頼みの仕事になっているようで。

 

もはや寿司を食するにもかつお節の出汁を味わうにも、よそ様の力を借りなければ如何ともしがたい。「和食 日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されて久しいですけれど、そんな独自文化と思しきものの底支えは非常に厳しいものがあるような気がしますですね…。