このところ、たまたまにもせよ『踊る大紐育』やら『錨を上げて』やらと、ジーン・ケリーのミュージカル映画を振り返ることになっておりますが、ジーン・ケリーと言えばやはり『雨に唄えば』でありましょうなあ。
なんでもこの映画、Wikipediaの紹介によりますと「アメリカ映画協会(AFI)が発表したミュージカル映画ベストの第1位、アメリカ映画主題歌ベスト100の第3位、アメリカ映画ベスト100の第10位、情熱的な映画ベスト100の第16位に選出された」ということですので、アメリカのミュージカル映画の最高峰と言っても過言では無いのかも。これを未見のままにしては片手落ちと、この際ですのでVODで見てみることにした次第でありますよ。
とはいえ、アメリカの方々とは必ずしも趣味嗜好が同一方向ではありませんので(なんとなく傾向的にそんな気がする…)、少々眉唾的な意識も持ちつつ鑑賞に及んだところながら、これ、面白いですなあ。今となっては(というより趣味嗜好の違いかもですが)いささかダレるところがあるようにも思うものの、よく出来ていると思ったでありまして。
先にも触れましたようにアメリカ映画主題歌ベスト100の第3位にランクインするほど、タイトル・ソング『雨に唄えば』はよおく知られていて、全編通して見たことはなくとも、どしゃ降りの雨の中でずぶ濡れも厭わず、傘を振り回しながらジーン・ケリーが歌うシーンはどこかしらで目にしたことがあるような。このシーンだけから思い巡らしますと、雨も気にならないくらいに楽しい、うれしいことがあってということが(どんなストーリーなのかも知らずに考えると)全編にわたって繰り広げられるのでもあるかと。さりながら、それだけの映画ではなかったのですなあ。
まずもって、時代背景はトーキー前夜のハリウッドにさかのぼっているわけです。サイレント時代に活躍した俳優たちがいざ声を与えられるととまどいを隠せなかった…てなところは映画でもよおく取り上げられるところでありますね。フランス映画の『アーティスト』あたりもそんな時代背景でしたけれど、これをハリウッドのようすとして描くのでありますよ。
トーキーの誕生にワーナー・ブラザースがいち早く『ジャズ・シンガー』を撮るのですね。和田誠の映画エッセイ集のタイトルにもなった『お楽しみはこれからだ』という名セリフはこの映画が出所ですけれど、それはともかくワーナーの取り組みを耳にした他の映画会社は様子見を決め込む。話題性はあるものの、どうせ失敗するだろうと高をくくっていたところもあるわけで。
さりながら『ジャズ・シンガー』は大ヒット。これを見て、我も我もとトーキーへと走るわけですが、困ってしまったのは俳優たちです。他の映画でも見たエピソードのように思うところながら、美人の誉高いサイレント女優がその声、その話し方に大いに難があり、とてもじゃないけれど使えない。しかも本人に自覚が全く無いとなれば、吹替を言い出すこともできず…と。
『雨に唄えば』では、その女優とコンビを組んでサイレントのヒット作を量産していたドン(ジーン・ケリー)が吹替役として抜擢されたキャシー(デビー・レイノルズ)と恋仲になるも、かの女優の方は長年のコンビであること=恋人どうしという思い込みがあって…というドタバタの展開になってくるのですけれど、やっぱりここでもジーン・ケリーのダンスの巧さが目にとまりますですね。
親友のコズモ(ドナルド・オコーナー)と二人で踊る場面が多いですが、おコーナーの方もコメディアンという経歴どおりの達者さを随所に見せるも、おちゃらけた動きは持ち味であっていかんともしがたい。一方のジーン・ケリーは手の動きから足先の動きまでひとつひとつが無駄なく決まる。気持ちがいいこと、この上無しなのですよねえ。
と、ここまで見てきた前二作も含めて、ジーン・ケリーばかりを持ち上げているようになってしまってますが、ふと、こちらもミュージカル・スターとして知られるフレッド・アステアはどうなんだろう…と。やはりこれを機会と何かしらアステア映画も見てみましょうかね。