ということで、東京・多摩センターにあるKDDIミュージアムのお話の続き。前回はもっぱら有線通信に目を向けておりましたですが、今でももちろん有線が使われている一方で、無線通信の電波は世界中を飛び回っており(これはこれでいいのかどうか…ですが)、今の時代には不可欠なインフラとなっておりますなあ。
話の流れからして、まず有線通信があり、やがてこれにとって代わって無線通信の時代となった…てなふうにも思ってしまいがちながら、先に「今でももちろん有線が使われている…」といいましたように、それぞれに長所短所があるのでしょう、両方ともに併存している状況なのですな。
ですが、各地の海に海底ケーブルが敷かれて世界に通信網が構築されているのであれば、敢えて無線が必要であるかと早合点しそう。さりながら、ケーブルでつなぐことのできない移動する船舶、航空機などには無線通信無くしては連絡の取りようがないわけですね。とまあ、そんな無線通信の始まりについて、展示解説から引いておくとしましょう。
1888(明治21)年、ドイツの物理学者ヘルツが電波の存在とそれが空間に伝わることを実験により確認すると、電信線を使わずに電波によって通信を行う研究が進められるようになりました。1894(明治27)年から実験を始めたイタリアのマルコーニが、アンテナや検波器などの改良を行って着実に電波による通信可能距離を延ばし、無線通信の可能性を示すと、各国は競ってその実用化に取り組みました。
(唐突ながら)日露戦争では日本海海戦にあたり「本日天気晴朗ナレドモ波高シ」という電文が発信されたということが夙に知られておりますけれど、これってマルコーニの実験から10年後くらいのことだったのですなあ。こういう結びつきで考えたことがなかったですが、ともあれ船舶交通の安全性は無線通信によって高まったことでありましょうね。
ところで、無線通信の最初期は「長波」を利用したのであると。長波は「地球の表面に沿って遠くまで届く特性」を持っていたことからこれが利用されたそうなのですけれど、どうも遠くへ飛ばすためには大きな出力が必要であり、大きなアンテナも必要だったということで。
展示解説の上の方に巨大な物体が飛び出していますけれど、これは1929年(昭和4年)、現在の愛知県刈谷市に開設された依佐美送信所のアンテナ鉄塔(高さ250m)で電線絶縁に使われた碍子なのだそうでありますよ。碍子ひとつが長さ3m、重さ1.5トンとは…、全てが長波無線に切り替わり得ないようすが偲ばれようかと。
ところがこうした巨大碍子を持つ巨大アンテナの長波送信所が設けられた頃、無線通信の世界には大きな変化が訪れるのですな。「短波」の登場です。
短波は電離層で反射する性質があるため、電離層での反射と地表での反射を繰り返すことで地球の裏側までも電波を届かせられるのだそうですな。しかも、長波とは比べ物にならなくくらいの小電力、それこそわずか数ワットあればと。ひと頃、SONYに「スカイセンサー」というラジオがありまして、短波放送が受信できる。つまりは世界中の放送局の番組(短波放送であればですが)が聴けるということで人気がありましたが、理屈としてはそういうことだったのですなあ。
ちなみに、現在の「KDDI」に繋がる会社は、こんなふうに誕生したようです。おじゃましているのがKDDIミュージアムですので、一応紹介を。でもって時代は少々すっ飛ばして、やがて通信衛星を経由する形となっていきますなあ。
これによってTV放送の海外中継番組などもごくごく自然なことになっていきますけれど、日米間で初めてのテレビ中継実験が行われたのが、1963年(昭和38年)11月23日のこと。アメリカでは11月22日となりますが、わざわざ日付まで記したことで、「この日は?!」と気付く方もおいでではないでしょうか。ダラスでのケネディ暗殺、まさにその日だったのですなあ。
予定ではこの実験でケネディ大統領による録画演説の電波が届くはずになっておりましたが、現職大統領暗殺という一大事により、急遽アメリカ側送信所のあったモハヴェ砂漠の荒涼とした景色に差し替えられたとか。この映像が届いたとき、日本側はさぞ戸惑ったことでありましょうね。
とまあ、ざっくりいえばこんなふうに通信技術は発展したきたわけですが、この後、ミュージアムの展示はKDDIそのもののお話に(たぶんに手前みそ的なところも含みますが、そこはそれ、企業博物館ですのでね)。そこにも触れたい気はしますが、長くなってきましたので取り敢えず、ミュージアムの探訪記はこの辺で。とにかく展示内容が豊富でしたので、また機会を見て訪ねてみようと思っておりますですよ。
ガイドツアーご担当の方には何かと質問したりして、「それはこの次に説明しようと思っていたことで…」と、『ブラタモリ』のタモリ状態になってしまいましたが、お世話になりました。おかげで面白かったです(笑)。