うっかりしておりましたが、2021年末の「第九」公演を聴きに行った際に立ち寄った

練馬区立美術館のことを遅まきながら記しておこうかと。

「収蔵作品による 小林清親展【増補】-サプリメント-」という展覧会が開催中でありまして。

 

 

「増補」、「サプリメント」とは何とも異なタイトルですけれど、

2015年に同館で清親没後100年展が開催されたのち、「この展覧会が機縁となって

清親の作品や資料、遺品類約300件の寄託」を受けることになったというのですなあ。

こうしたことからこれらの資料を展観する場として、回顧展のサプリメントとして開催する展覧会、

それが本展であるということです。

 

それだけに、「光線画」として知られる小林清親らしさ全開と思しき作品が並ぶ展示というよりも、

光線画たる作品に仕立てあがる以前の下絵や、さらには思いもよらない清親の別世界といいますか、

こんなお戯れの一面もあったのかというあたりも垣間見られるものとなっていたのでありました。

 

例えばですけれど、上のフライヤーに配された作品はどうでしょう。

これが小林清親の作品と言われて俄かに得心がいくものではないような。

 

 

明治16年(1883年)に刊行された『全世界一大奇書』という書物、内容のオリジナルは

「アラビアンナイト」だそうですけれど、これに清親はモノクロの線描画で挿絵を寄せたのだそうな。

展示された本作は水彩による彩色画でして、それだからこそ尚一層かもしれませんが、

遠景にそそり立つ宮殿などはもはやSF映画のようではなかろうかと思うところです。

 

清親の想像力はまるでヒエロニムス・ボスでもあろうか(「快楽の園」を思い出したり…)とも

思ってしまうところながら、実はこれは英国の挿絵画家ルネ・ブルの作を模写したものであるとか。

この種明かしには少々肩透かしを食った気分でありましたよ(笑)。

 

一方で、戯画を描くとは(個人的には知らない世界でしたですが)清親にはよく知られたことでもあったようで。

「弁慶と小町」という一作は、タイトルからすると大層な歴史絵巻かと想像するところながら、

その実、「弁慶と小町は馬鹿だ、なあ嬶ぁ」という艶笑的な江戸川柳をベースにしたもの。

 

武蔵坊弁慶も小野小町も、どちらも男女の深い仲になったことが無い、

お楽しみを知らないとは馬鹿なやつらよというわけで、弁慶と小町を見て、遊女たちが忍び笑いをしていると、

こうした類の絵を(手遊びにもせよ)手掛けていたとは、戯画作家たる清親を知らなかった者にとっては

驚くべき新事実のように思えたものなのでありました。

 

ところで、小林清親には弟子が何人もいたそうなのですけれど、

その中で本展では「清親の右腕」と紹介されていたのが土屋光逸という人であったと。

16歳で清親の内弟子となり、「家族同様に扱われ小林家の家事全般もこなしていた」とか。

 

清親としても「指導を惜しまなかったという」ことなるも、あまりに清親の一家をかまうことを優先してしまったか、

土屋自身の画家デビューはなんと60歳になってしまっていたそうな。

作風はいわゆる「新版画」ということになりまして、昨今、新版画では川瀬巴水が知られるも、

土屋光逸の作品もなかなか。インターネットの画像検索で作品の数々が見られますが、

展示にあった「雪の堅田 浮見堂」などは静かにじっと眺めていたくなる一作でありましたですよ。

 

とまあ、弟子のことも含めて、知らなかったことをあれこれ気付かせてくれた展覧会、

サプリメントというだけあって(TVのCMで見かけるサプリメント通販の試供品でもないのに)

無料で見られるとは誠に太っ腹の練馬区立美術館ではなかろうかと思ったりもしたのでありました。