ユーミンの「あの日にかえりたい」がラジオから繰り返し繰り返し聴こえてきていた1975年の秋。
ちょうどその時期にポプ・コン(ヤマハ「ポピュラーソング・コンテスト」)でグランプリ受賞と
「時代」をひっさげた中島みゆきが大々的に登場してきたのでしたなあ。
以来それぞれにときどきに些かの浮沈を繰り返しながら息長く活動を続ける中、
今ではそういう認識もなかろうとは思いますが、ユーミンと中島みゆきがライバルのように捉えられた時期が
あったやに思うところです。ただし、その捉え方はユーミンの「陽」に対して、中島みゆきの「陰」。
まあ、あながち否定もできないところですけれどね。
ユーミン・ワールドが醸すスタイリッシュさとは、中島みゆき的世界は全く異なるところでしょうから、
ライバルも何も無いと思うところながら、まあ、本人よりも周りの「売るため」の戦略だったのでありましょう。
で、中島みゆき的世界なるものですけれど、さすがに四畳半フォークに並べるものではないとしても、
描かれるところを想像するに、ワンルームくらい(ユーミンで想像するところよりは狭い)の印象でしょうか。
ベッドくらいは置いてあるかもですが、そのベッドの縁を背にもたれ、床に膝を抱えて座って動かない。
うつむき加減で黙っているその頭の中から吹き出しが出てきたとすれば、
「ひとりが好きなわけじゃないのに…」などというつぶやきが見えるような。
そんなところでもあらんかと想像するところです。
と、いうところでまたまた近くの図書館からCDを借り出して、聴いてみましたですよ。
「中島みゆき PRESENTS BEST SELECTION16」という一枚です。
上のつぶやきに引いた「ひとり上手」も「悪女」も、
そして「わかれうた」、「時代」、「アザミ嬢のララバイ」なども含めて全16曲。
改めて聴きましたけれど、「これでもか」というほどに濃密な世界でありましたなあ。
ともすると、後ろを振り返ってしまったがために地獄へと引き戻されそうになるオルフェにかかった
強力な負のパワー、そうしたものに取り込まれてしまうのではないかとさえ思ったほどでありまして。
思うに、中島みゆきという人は曲によって多少なりとも歌い方を変えておりますね。
もちろん、ちびまる子ちゃんの声が最初はひどくあっさりしていたのが、
放送が進むに従って(声優さんの慣れでしょうけれど)だんだんとはっちゃけてくるような、
そんな経験を積んだ変わりようもあろうかと。ですが、それだけではないような。
例えば「わかれうた」の、いささか鼻にかかった淡々と運ぶ歌いよう。
歌詞の内容のわりにあっさりと聴きとおせるのはこの歌い方にもよるところでしょう。
先に挙げた「ひとり上手」も、また「悪女」にしても、まだまだ平気で聴いていられるところです。
(どちらもアレンジという味付けの妙もあるとは思いますが)
さりながら、時に絶唱系で歌い上げられるものの中には
泥沼にぐいぐいとひきずりこまれるような感覚を覚えるものがある。聴いていて「助けてくれぇ~!」と。
借りてきたCDを一度は聴き通したものの、その感覚が怖くて、二度目に及ぶこともできず…(苦笑)。
ただ、そのパワフル歌唱系が(このベスト盤が出た頃は作られてもいなかった)その後の有名曲、
「地上の星」には活かされて、世に広く老年男性層にまで応援歌としているのでもあろうかと。
(もっともご当人も老齢域でしょうから、リアルタイム同世代の人は皆老齢に差し掛かっておるわけですが)
一方、歌い方が変わるという点では、
ちょうど「地上の星」のB面ソング的な「ヘッドライト・テールライト」に発揮されておりますな。
けしかける「地上の星」対して、クールダウンの「ヘッドライト・テールライト」、
NHK「プロジェクトX~挑戦者たち~」のオープニングとエンディングにそれぞれを配したことは
番組の人気にひと役もふた役も買ったのではないでしょうかね。
ともあれ、今は中島みゆきの呪縛から早く逃れたい気がしておりますよ。
やはりJ.S.バッハの音楽で、天上世界に誘ってもらうとしますかね…(笑)。