昭和初期でしたら確実に子供たちも知っていた時代劇ヒーローというのがおりましたなあ。

といって、さすがにその時代には生まれておらないわけですが、

そこにはやはり何かしらの魅力といいますか、気を引くものがあったのだろうと想像するところでして。

 

ですので、後追いにもせよ、映画や芝居などで接する機会を見つけては

丹下左膳や国定忠治、月形半平太といった名前だけ知っているものの、いったいどんな話?と

積極吸収に努めていたのは、ここ数年のこと。そんな中にあって、鞍馬天狗という大物ヒーローへの

接近遭遇が叶わずにいたところ、このほど機会を得てドラマ版の「鞍馬天狗」を見ることに。

2008年にNHKの木曜時代劇として放送された全8回、主演は野村萬斎でありましたよ。

 

 

かつて鞍馬天狗と言えばすなわち嵐寛寿郎でしたなあ。映画版を見たことはなくとも、

黒い頭巾の剣客ながらなぜか懐から短銃を取り出す姿、「杉作!」「おいちゃん!」と子役と呼び交わす姿など

うっすり思い浮かべることができるような、できないような。

 

明らかに記憶にある嵐寛寿郎はすっかりおじいさんになっていて、

車磨きだかのCMで「あらかんたん」てな台詞を言う姿くらいしか覚えてはおりませんけれど…と、

嵐寛寿郎のことはともかくとして、鞍馬天狗も勤王の志士だったのですなあ。

 

月形半平太と同志であるかと思うところですが、

平時においては倉田典膳(鞍馬天狗のもじりですな)と名乗るこの人物がもっぱら絡むのは桂小五郎、

長州とつるんでいたのであるかと。ですから、当然のこととして新選組とは敵ということになるわけです。

 

「月形半平太」の芝居が初演されたのは大正8年(1919年)、

そして「鞍馬天狗」の第一作を大佛次郎が雑誌に発表したのが大正13年(1924年)、

まだまだ幕末維新を知る人たちがたくさんいたであろう時期だけに、

勤王の志士を主役にし、新選組はもっぱら敵役に回るという構図はむべなるかなと改めて思ったり。

 

ではありますが、どうも鞍馬天狗と新選組、というより近藤勇はあたかも矢吹丈と力石徹のような関係、

即ちライバルながらお互いにお互いを理解し、心を通わせているとでもいいますか、

そんな関係に描かれているのが妙味のひとつでもあろうかと。

 

そうした描かれようをどんなキャスティングでやっているか…ですけれど、

鞍馬天狗が野村萬斎、桂小五郎が石原良純と、ううむ、弱い、軽いと思われる一方で、

緒形直人演ずる近藤勇の、何と重厚な懐深い人物像であることか。

 

体つきとしても中肉中背であるはずなのに、低い重心のどっしり感が伝わってくるようですし、

こうした人物だったからこそ、土方も沖田も永倉も藤堂も付き従ったのではなかろうかと思えるほどに。

ともすると、土方や沖田の注目されように比べて、影が薄いようにも思えたのは単に描き方だったのでありましょう。

 

…と、すっかり話は新選組になってきてしまったわけですが、

多摩地域には「新選組のふるさと」を標榜し、資料館などもある日野市がありまして、

予て一度は訪ねてみようと思っておりましたので、なんだか背中を押された気がしたものなのですね。

 

 

で、やってきたのはJR中央線の日野駅。

ここからあれこれの施設を訪ね歩いた…というお話がこの後に続くということで。