雨に降りこめられた奥湯河原では重光葵記念館を訪ねただけで、そそくさと退散。
バスで登ってきた道をそのまま逆戻りして、温泉街の中心部まで降りてきますと、
道沿いに大きな建物がありまして、これが町立湯河原美術館であると。
こう言っては何ですが「町立」というニュアンスで、ささやかな展示をイメージしておりましたが、
どうしてどうして、やはり湯河原はたくさんの文人墨客に関わりあるところであるわけで。
建物が大きいと思いましたのも当然でして、元は老舗旅館であったところを美術館に改装したのだそうな。
それだけに館内の通路など、建て増し感覚がまさに温泉ホテルを彷彿させるところでもあって、
展示室を渡り歩くのもまた楽しと言いましょうか。
ところで、湯河原町HPの美術館紹介によりますと、
「近代日本画の巨匠・竹内栖鳳や洋画家・安井曾太郎、三宅克己など湯河原にゆかりの作品を集め」て
開館当初は「湯河原ゆかりの美術館」という名称であったことからも、常設展ではそのコレクションが見られる。
まずは常設展の展示室を覗いてみます。
夏目漱石も逗留したという旅館天野屋を竹内栖鳳もたびたび訪ねて、宿の主人などとも懇意にしたのでしょう、
ささっと描いたものが軸装されていくつも残されたようで。
鉄瓶に金泥で、これまたさっと竹を描いたりもしておりまして、
画家の逗留に際して、宿としては「どうぞ部屋をアトリエとして使ってください」てなふうでもあったということですので、
こうした作品ならぬ作品までが伝えられているのですなあ。
その後に美術館となった天野屋ならではのオリジナル・コレクションでありましょう。
ところで、竹内栖鳳といえば「西の栖鳳、東の大観」と並び称されることもある京都画壇の大物ですな。
これが湯河原を気に入ってくれ、しかも湯河原が終焉の地となったということも
先にふれました「小京都」認定のひとつの材料になったということで。
もっとも湯河原にとって「小京都」のネーミングはもはや過去のものではありますけれど。
この他にもゆかりの画家の作品として、安井曾太郎の「赤き橋の見える風景」は題材もまた湯河原。
美術館から少々下っていったところに富士屋旅館という、老舗感たっぷりの宿があるのですが、
川向こうの建物へ朱塗りの橋を渡っていくようになっておりまして、「赤き橋」はこれであるかと思ったものでありますよ。
また、伊東深水もゆかりの画家でということで、その作品「水鏡」など見るべきものはあれこれと。
なめてかかって申し訳ないと思いつつ巡った常設展なのでありました。