房総半島の旅の初日には、小さいながらも個性的として知られる市原湖畔美術館を訪ねましたですが、

今度は房総半島を離れる直前にまた、小さいながらも個性的という美術館に立ち寄ったのでありますよ。

 

 

かつては金谷美術館という名称であったものが鋸山の知名度に寄りかかることにしたのか、

今ではその名も鋸山美術館と変わっておりましたけれど、がらがらではありました…。

 

 

裏庭にはいくつかオブジェも並んでいるのですが、こちらも見て回る人の姿とてなく…。

ちなみにこれ、1月の連休の話ですから、ウイルスが取りざたされるのはもそっと先なのですけれど。

とまれ、館内で開催中だったのは第6回鋸山美術館コンクールという公募展の受賞者展覧会でありました。

「海や山などの自然や人物、静物、風物詩など身近なものを対象に自由に表現された10号以下の作品」を

全国から募集したものであるそうで。

 

 

有名作家の作品はひとつもありませんが(といって、実は有名な人も交じっていたかも)、

ビッグネームに惑わされることなく作品と向き合ってみれば、数々の創意工夫に溢れている。

東京都美術館や国立新美術館などで、大規模な有名作展示のかたわらで公募展がよく開催されていますが、

そちらにまではあまり足を向けないものの、たまにこうした新進気鋭といいますか、気概を感じる作品に向き合うのも

たいそう刺激的であるなると思うのでありますよ。

 

ちなみに上のフライヤーを飾っているのが、大賞を受賞したという山崎良太「銀河鉄道」という作品。

フライヤーでは見えにくいでしょうけれど、たばこの煙が立ち上る部分には線描で小型の蒸気機関車が描かれています。

(山崎良太で検索しますと、山里亮太ばかりがヒットしてきますので、まだまだこれからの作家さんでしょう)

 

とまれ、タイトルに関わりがあるかどうかは別に、誰しもが宮沢賢治の世界を思い浮かべるところでもありましょうから、

素敵な作品ですけれど、イメージの広がりは限定的なような気もしますですね。

同じ作家でもう一点が「白鳥座の墓」となれば、これはやっぱり賢治を意識しておったかと。

 

というところで、他に「お!」と思わせられた作家のことも少々記しておくといたしましょう。

いわばみな新作ですからあいにくと画像で触れることができず、伝わりにくいかもしれませんが、

個人的にいちばんに目をとめたのが切り絵作品なのですね。応募は何も絵の具などで描いたものに留まらないようで。

 

切り絵と言いますと寄席で見かける紙きりを思い出すところですが、

ここに展示されていたkiyora作「prayer」という作品は細かいというか、緻密というか。

ハサミで切り、切り抜くといってしまうと単なる作業にも思えるところながら、

それを突き詰めると違った形が見えてくるという気付きがあれば…思うのはコロンブスの卵ですな。

もっとも技術的な裏打ちもなくてはできないことですけれど。

 

同様に梶川桃子作「月齢樹」という作品は刺繍なのでしょうけれど、

ミクストメディアか思える妙味を持っておりましたなあ。

 

こうしたマテリアルの妙ではなくていわゆるタブローに目を向けますと、

シュルレアリスムを思わせる想像力を刺激する画面の作品に惹かれるところでして、

中山恒忠「ボルト浮遊」のすっかりリラックスしているボルト(ボルト・ナットのボルト)などは

ダリの絵によく出てくる、くたっと脱力したような懐中時計を思い起こすのでもありますよ。

 

とまあ、想像をめぐらす楽しみのある展覧会を見てきていただけに、

上野の森美術館で毎年3月に開催されているVOCA展に今年は出かけてみようかなと思っていたですが、

不要不急ではありますので、残念ながら見送った次第。想像力への刺激は別の機会を探るといたします。