ちょいと前に見た映画「特急にっぽん」獅子文六の小説を基にしたコメディだったわけですが、

タイトルには特に「喜劇」とはうたっておりませなんだ。

 

一方で、このほど見ました映画にはタイトルにはっきりと「喜劇」の文字がかぶさって、

「喜劇 各駅停車」というものだったのでありますよ。

 

考えるにひとつとして単に「各駅停車」としてはタイトルが味気ないということがあったかも。

ですが、この映画を見て即座に「なるほど喜劇であるな」とは思えなかったのですなあ。

 

「ふ~む~」と思ってしまった折も折、ふと耳にすることになりましたのが落語の「文七元結」。

落語をして「毎度ばかばかしいお笑いを」とは決まり文句のようなものですけれど、

本来的に落語はコメディ、喜劇、つまりは笑いに通ずるところがあるところながら、

そういう落語の中には「人情噺」というのもあるのですよねえ。

 

歌舞伎にもなっていたりしますのでご存知の方も多かろうと思いますが、

「文七元結」はまさにそうした話でして、あらすじを(Wikipediaでは長いので)コトバンクから引いてみます。

侠気(おとこぎ)のある左官の長兵衛が、自分の娘を売った金で文七という身投げ男を救う。それが縁で娘は身請けされ、文七と夫婦になり、文七元結を売り出す。

長い引用もなんですが、ここまで摘んだあらすじになりますともはや身もふたもないような。

とまれ、生活苦から自分の娘を吉原預けにして得た五十両を、

集金の金が盗まれてはもはやお店に帰れず身を投げるしかないと考えた男にぽんと渡してしまうというのは、

人情という以上に誇張された江戸っ子気質ともいえましょうが、確かにほろりとさせられる人情味は演じ手次第で

じんわりとくるものなのですよね。

 

もちろん落語ですからくすぐりの数々はあるにせよ、話そのものはどうしたって人情噺…と、

そんなことに思い至ってようやっと先程ふれた喜劇を冠する映画が

「ああ、これは人情噺であったのか…」と気付くことになったのでありますよ。

 

SLのベテラン機関士を森繫久彌が演じて三木のり平がコンビを組むとなりますと

爆笑系喜劇の「社長シリーズ」が思い浮かんでしまいますけれど、

そのコンビで見せる人情喜劇ということになりましょうかね。

 

このくすっとさせ、ほろっとさせる類の喜劇というのは実はたぁくさんありますね。

すぐに思い浮かぶのは先ごろ新作?の公開された「男はつらいよ」、

これなどは典型と思うところながら、同じく渥美清が主演していたTVドラマの「泣いてたまるか」あたりは

さらに人情味が濃厚なような気もします。

 

このあたりの古いドラマには敗戦後のすさんだ世相をたくましく生きるといった色合いがありますから、

時代の違いというのはあるものの、落語の人情噺などとも同様に

泣き笑い的な機微をも喜劇と捉える感覚といいますか、そうしたものは心性はあったもいいのかなと。

 

その点で、ついつい映画「喜劇 各駅停車」の「喜劇」という部分に食いついてしまったのは、

いささかおおらかな受け止め方に(そのときの気分が)欠けていたのかも思ったりもするのでありました。