時折、日本画の展覧会にくくっと引き寄せられることがありまして、

このたび訪ねたのもそのようなひとつ。

日本橋髙島屋 の催事ホールで開催していた山口蓬春展でありました。


「山口蓬春展 新日本画創造への飽くなき挑戦」@日本橋高島屋S.C.本館8階ホール

どうもピンと来んなあ…てなふうに思いつつも、日本画を目にし続ける中では

だんだんとひっかかり、とっかかりが出来てくるものでありますね。

山口蓬春という画家もそうしたところから名前と画風(単に雰囲気ですが)を

記憶に留めていったような次第。


「蓬春モダニズム」という言葉がありますように、いかにも日本画らしい日本画ではない、

文字通りにモダンな印象を受ける題材や造形であったりするわけですが、

そのひとつの典型とも思えるのがフライヤーに配されたシロクマの絵でしょうか。


一見したところでは、あたかもMOVIXで本編上映前に流れる「恋するシロクマ」のような?

ほのぼの感を抱くところでもありますけれど、実はこの絵のタイトルは「望郷」という。

なんでも上野動物園のシロクマくんであるとなれば、なるほどと思いますよね。


でも、シロクマくんの所在が動物園とは

見ただけではわからないでは…?とも思ったりするところながら、

実は北極にしかいないシロクマと南極にしかいないペンギンが同時に描かれているのですから

人工的な環境であることは間違いないわけですなあ。


ちなみにペンギンはなぜ南にしかいないのかということですけれど(全くの受け売りですが)、

ペンギンの先祖はもともと南半球の比較的寒冷な地域で誕生したようで、

時が経つにつれて棲息域は広がる(南極にもオーストラリアにも)わけですが、

赤道の暑い地域を超えてまで北には広がらなかったということであるとか。


赤道あたりで馴染んでしまうと、

さらに北の寒いところにはもはや馴染めなくなってしまいましょうしね。

(そんなディズニーの短編作品があったような気がしますなあ)


とまれ、そんな作品「望郷」には本作のほかにサイズの小さい下絵が二つありまして、
会場では本作を挟んで左右に展示されておりましたですよ。


違いは、簡単な「間違い探し」のようでもありますが、
背後のペンギンがいたりいなかったり、数が多かったり少なかったりという点。

で、フライヤーにあるのは小下絵の方であるような。


これはこれで据わりのいい、安定感のあるものと見えるところながら、
大きく描いた本作の方は左側にペンギンが描かれていないのですな。

シロクマの向いている側には白い氷の平地が広がるばかりで、


ちと見た目にはぽっかり穴が開いたような…と、このぽっかり感が実は
「望郷」というシロクマの心のぽっかりを偲ばせたりするのでありますよ。
ふむふむ。


他の作品としては、こんなのはいかがでしょう。
「佐与利」という作品。魚のサヨリを描いているのですね。

山口蓬春「佐与利」(部分)


一面でリアリズムの追及をも目指した蓬春の描く魚は、
ネーデルラント絵画の静物画に見られるような生々しい姿ではありませんですね。
モダニズムが勝ったデザイン調で、昔の「暮らしの手帖」の表紙を飾りそうな。
(この感じが伝わるかどうかは分りませんが。笑)


ただそれでも「美味しそう」と見えるところにはやはり、
リアリズムが生きているとも言えるのかもしれません。

モダンさという点では「夏の印象」という一枚もまた、
朝顔、麦わら帽子、海辺の貝殻を描いて、この暑い時季を涼やかにする
素敵な作品でなのでありました。


これまた婦人誌の夏の号の表紙を飾りそうですけれど、
何がモダンといって、その淡い色調もさることながら、
朝顔の特徴ある葉の形を輪郭線だけで描き出しているところなど、
おしゃれではありませんか(是非、画像を検索してみてくださいまし)。


展覧会のタイトルは「山口蓬春展 新日本画創造への飽くなき挑戦」というもの。
蓬春を先輩として、東山魁夷 も片岡球子もその飽くなき挑戦をそれぞれの形で
引き継いだのだなと思えば、もっと日本画を見てみたくなることは必定ですね。
そんな展覧会でありましたよ。