常滑のやきものといって、招き猫 やら土管、焼酎瓶 やらを取り上げましたけれど、
ごくごく普通の家庭で使用されるもので常滑ならではと思われるものは
やはり急須でありましょうか。


常滑市陶器会館で見かけた常滑焼の急須

「やきもの散歩道」の発着点とされている常滑市陶器会館でも
かようにさまざまな急須が展示即売されておりましたですよ。


ですが、常滑の急須としてもっとも知られたものは、
左手前側に3つほど見られるような朱泥の急須ではなかろうかと。

先に覗いた廻船問屋の瀧田家 でも
床の間にことさら大きな急須が鎮座しておりましたっけ。


朱泥細字彫急須@常滑・瀧田家


デジタル大辞泉によりますと「朱泥」とは
「鉄分の多い粘土を焼いてつくる赤褐色の無釉陶器」だそうですけれど、
明代に中国で創始されたものが伝わって、土が適していた関係でしょうか、
常滑でも作られるようになったようですな。


てなことで、常滑散歩を始める前に朝の段階で立ち寄った駅の観光案内所で
「急須を買うとしたら…」てな話をしてみますと、「急須なら」といくつかショップを
紹介してくれたのですね。


暑さの中で歩き廻っているうちにいつしか失念しかかっていたところ、登り窯のすぐ近く、
「あ、ここか」と思い出して立ち寄ったりのがこちらのお店でありました。


SPACEとこなべ


登り窯のそばでもあり、元はおそらく工房だったと思われる古い建物が
今はやきもののショップになっていて、それはそれでお店としても味わいが感じられますが、
店内は撮影禁止のようでしたので、大人しく品物を見ておりましたですよ。


そこには確かに常滑の急須の代名詞たる朱泥の作品がいくつもあったわけですけれど、
なぜ朱泥の急須が代名詞となるのかと申しますれば、お店の方の話によりますと、
朱泥はお茶と相性がいいからだということなのですなあ。


そういうことであったかと思ったものの、今さらながら白状しますと
どうも朱泥の色合いが個人的には今ひとつ冴えない気がしておりまして(失礼!)。
ですから、先に陶器会館で見かけたようにいろいろな品があるのならば
朱泥でなくてもいいのかなと思いかけていたところが、大きく肩透かしを食ったような。


でもって、さらに話を伺っておりますと、朱泥と並んで置かれている真っ黒な急須、
これは朱泥を二度焼きしたものであるということなんですな。


デザインとして全体的に真っ黒なところへもってきて、
部分的に朱泥と同じ色のラインが入っているものもありまして、
これは二度焼きして黒くした上で、下層にある朱泥部分を削りだしたという
手間の掛かった作りになったいると。


つうことは、地が朱泥なわけですから、お茶のとの相性の良さも(ある程度?)保たれ、
その上で全面的に朱泥というより惹かれる(個人的意見です)仕上がりとなっている。
値段的にはたかが急須、されど急須(といって芸術作品を買うというほどでない)で、
思い入れからも長く愛用できるだろうと考えた次第。
それがこちらの品でございます。


鯉江廣作「急須」


「これ、ください!」とお願いしますと、なんとも立派な箱に入れてくださって、
「この方の急須は、ほかではあまり手に入らないのですよ」とお店の方。

それこそ芸術作品を買うつもりはありませんから、
作者がどうのということを気にかけていなかったところが、
この急須の作者は果たして鯉江廣という作家さんであるそうな。


玲光窯の刻印


「玲光」窯という刻印が見えますけれど、玲光窯というのが作者の工房であるようで。

それにしても「鯉江って…」。


なんとまあ、常滑の陶祖とも言われる鯉江方寿の一族に連なる作家の作であったのですなあ。
つうことは、素人ながらもしかして少しは目利きの素養あり?などという驕りはともかくとして、
常滑の急須で飲むお茶の味は果たしていかに。


実はなんだかもったいなくって、未だ急須そのものを愛でるのみなのでありました(笑)。