どうも葛飾北斎 人気は衰えること知らずといったふうでありますねえ。
どうやら今年の後半からは新しく発給される日本旅券(要するにパスポート)では、
査証(ビザですね)のスタンプを押すページの背景に
北斎の「冨嶽三十六景」
から選ばれた24作品が薄く刷り込まれるのだとか。
(ちと知るのが遅くて、ご存知の方は多いのでことでしょうけれど)
東京ではちょうど「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」なる展覧会も開催中とか。
折しもEテレ「日曜美術館」で北斎に関するシリーズものが放送され、
「北斎すごい!北斎すごい!」なりますと、おそらくは混み混みとなりましょう。
そうしたところへ出かけるのには二の足を踏むタイプだものですから、
この「新・北斎展」に伊藤忠商事が協賛しているところから、
伊藤忠青山アートスクエア
では関連企画として別の北斎展が開催されているのですな。
「テクニカル北斎展~進化する浮世絵木版画の技と美~」なるもの。
こちらならば(いつも空いている会場なので)人も少なめだろうと出かけたのでした。
しかしながら、いつもとはようすが違って結構な人の入り。
なんとなれば、たまたまにもせよ、北斎の代表作「神奈川沖浪裏」を
現代の摺師の方が実際に刷って見せてくれるというパフォーマンスの真っ最中。
さもありなむとは思いましたが、それも北斎なればこそでありましょうかね。
ちょうど刷り上がった後の版木には青の色が鮮やかに残っておりましたなあ。
手を見て想像がつくかもですが、摺師の方はそこそこ若そうな職人さんでして、
伝統は継承されておるのだなあと思った次第です。
とまれ、こうしたパフォーマンスが行われるこの展覧会「テクニカル」と銘打つだけに
「制作テクニックの視点を中心に」紹介するものとなっていたのですね。
浮世絵は、ご存知のように絵師、彫師、摺師の三者が連携プレーで
作品を作り上げるわけですけれど、いかに葛飾北斎の下絵が「すごい」ものであっても、
それを彫り、摺る職人の技の冴えが必要であったとは言うまでもなく。
これまた有名なこの「凱風快晴」にしても、
北斎が下絵を描いたらまずは彫師の仕事となりますね。
刷り色に合わせて、版木を何枚も彫り上げる。
それが摺師の手に渡って、何度も塗り重ねていくことになるわけですね。
北斎の陰に隠れた職人たちの仕事にも少し思いを致さなくてはと思うところですが、
昔の版木を使って、浮世絵を今に再現するということばかりが
伝統の継承ではないわけでして、新作浮世絵的なるものも作られているようですね。
つまりは絵師側の継承といいますか。
こちらは展示にあった今様浮世絵とでも申しますか。
左が「新東都名所 日本橋改」、右が「新東都名所 芝の大塔」という、
いずれも山口晃
の作品です。
元々、山口晃作品の図柄は浮世絵との親和性が高いようにも思いますので、
今と昔が融合したような景色ながら「馴染む」ところはありますね。
現在も架かる石造りの日本橋を塞ぐ首都高の上に昔々の木橋が架かるさまは
斬新というか、奇抜というかですけれど。
そうした親和性とはちと異なる印象があるのが、
「アダチUKIYOE大賞」の受賞作でありましょうかね。
「現代の浮世絵師発掘プロジェクト」と言われているようです。
左側は志世都りも作「ビッグ・マウンテン・ソバ・ヌードル」で、
右はカワヲワタル作「纏Ⅰ」という作品。
いずれも「どこらへんが浮世絵?」てなふうにも思いところながら、
素人目で「ああ、版画の特性なんだな」と思いましたのは、
単純に「描く」だけでは出ない刷りの際の「圧」かなとも。
こういう立体感は描いて出るものではないですものね。
こうしたところを効果として活かせるのも版画ならではでしょうから。
と、展覧会で絵画作品が並んでいますと、
ついつい版画はチラ見になったりもしてしまうのですが、
版画ならではの妙もあると(分かっているもの)再認識したりするのでありました。