ちょいとタイムポケットのように仕事に穴が開いたものですから、
先日の振替休日でもってひとつ懸案事項を果たすことに。
かような言い方をしますと、すいぶんと大層な懸案事項に思えるやもですけれど、
実は「大衆演劇」なるものを一度は見てやろうと思っていたのでありまして。
どうも聞きかじるところでは、固定客がいる独特の世界のようでもあり、
一見さんには(気分的に)敷居が高い気がして、先延ばし先延ばしにしていたのでありますよ。
環境的にはいつでも行ける状況にはあったのですね。
何しろ東京都内には、浅草、十条とともに三軒だけとも言われる大衆演劇の常打ち小屋が
近隣の立川にあるのですから。
そんなところで、あまりに場違い感があるようなら止めとこうとも思いながら
立川けやき座なる芝居小屋へと出かけていったのでありました。
平日だったせいか、入口にわんかさ人だかりが…ということは全くなく、
それがためにうかつにもすうっと入場料を払って入り込んでしまいましたが、
客席まで言って少々たじろいだところがないではない。
入口のようすからして、平日だしすいてるのかもねと思ったほどには空いておらず、
しばらくすると「大入」の札が貼られるくらいの状況(満杯ではなかったのですけれどね)。
そして、たじろいた要因はといいますれば、
客層の男女比がどう見積もっても1:9よりさらに開きがあるようすだということがひとつ。
もうひとつは年齢層の高さ故なのでありました。
とまあ、長い前置きはともかくとして
「劇団荒城(こうじょう)」の舞台を見てきてしまったというお話でありまして。
この手の公演は二部構成になっており、第一部が芝居、第二部がショーといったものであるとは
辛うじて予備知識として知っておりましたが、本当にそのとおり、しかも全編3時間ですよ。
入場料1,600円は安いのかもしれませんですね。
ふいに出かけたわりに、この日の芝居の出し物は何と「切られ与三郎」。
ちょいと前に「昔の歌は背景を知らないと…」 てなことを書いた折に引き合いに出した
「お富さん」なる歌の元が歌舞伎「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」にあると
知ったかぶりをしたわけですが、同じ歌舞伎を元にしたのが「切られ与三郎」なのですなあ。
改めて筋を追って、春日八郎の歌った歌詞がより一層すとんと落ちるという
思わぬ効能があたりましたですよ。
かつては子供でも知っていた登場人物たちの話の記憶がどんどん薄れていくご時勢にあって、
ちょいと前には新派の公演で「国定忠治」を見たり、明治座で「月形半平太 」を見たりと
見られるときに見ておこう的精神が出てきたりしてますが、
大衆演劇の演目をチェックしておくといいのかもしれませんですね。
何しろレパートリー形式といいますか、いくつもの演目を昼夜2公演、ほぼ毎日掛けている。
演目の数はなかなかのもの。昔の興業形態はこうだったのでしょうなあ。
という具合に芝居はかなり楽しめたのですけれど、問題は第二部のショーでありますよ。
こちらの劇団の役者さんにはあまり歌のうまい方がおられないのか?、
歌謡ショーではなく舞踊ショーが行われました。
と、ここで「大衆演劇、かくなるものか」という場面に遭遇するわけですな。
きらびやかな衣装に身を包み、お化粧ばっちりの役者さんたちが
入れ代わり立ち代わりステージに登場し、舞を披露するわけですけれど、
やおら観客が立ち上がったかと思うとステージにずんずん近づいていき、
役者の襟元にクリップで何かとめておる。
これが一万円札なんですなあ。しかも複数枚だったりして。
いわゆる「おひねり」とは紙にくるんで放り投げるものかと思っていましたが、
そうではない風習が出来上がっていたのですな。
何人もの人がクリップ持参できているわけですから。
例えが悪いと知りつつも「ホストクラブもかくあらん」(行ったことありませんが)てな
印象もあったりして、芝居への興味からはまた何かしら見てもいいかなと思ったものの、
場違いの感までは抱かなかったながら、独特の世界だなあといささか引けたものでありました。