山本周五郎 の小説「町奉行日記」をもとにした映像化作品ふたつ、
見る側としては意図することなく、CSで前後するように放送されたものですから
両方ともに見てしまったのでありますよ。
ひとつは「どら平太」というタイトルで2000年に公開された映画化作品。
なんでも「四騎の会」を結成した黒沢明、木下惠介、市川崑、小林正樹の4人が
共同で脚本にあたっているという、何やら大層なものでありまして。
もっとも長らくお蔵入りになってしまっていた本らしいですけれど。
もうひとつは1981年にTVのスペシャルドラマとして単発放送されたものらしく、
そのせいかDVDは出ていないようすの「着ながし奉行」。
ドラマではありますけれど、岡本喜八が脚本に加わり監督もしたというものです。
小説が映画になる際には云々…と以前に触れたことをくり返しませんけれど、
小説と映画という関係でなくして、同じところから別に生れ出た作品ふたつ、
これはやっぱり比べるということしてしまいますよねえ。
で、結果として(個人的感想)はどうかということですけれど、
だんぜん(と言ってしまいますが)ドラマ版の方が面白くできているように思ったのでした。
ひとつにはキャストの点でしょうか。主人公の望月小平太を
映画版では役所広司、ドラマ版では仲代達矢が演じていたわけですが、
そも「どら平太」とか「着ながし奉行」とかいうタイトルであるように
本来的には町奉行としてしゃんとしていなければいけんところを
傍目には町人まがいにふらふらしてばかりいるという役どころでして、
どうも役所広司の方は気合入りすぎの感がありましたなあ。
翻って、仲代の方はといえば
同じ山本周五郎作品の映画化である「いのち・ぼうにふろう 」で見せた凄みとは
打って変わった飄々ととぼけたようすが実にお見事でしたですよ。
小平太が奉行として一掃を図る「濠外(ほりそと)」と言われる治外法権的な悪の巣窟も
カラー作品の映画版ではどろどろとしたふうを見せるばかりなのに比べて、
モノクロ画面のドラマ版ではいいあんばいのディストピア感を醸していたようですし。
脚本が豪華メンバーだからうまくいくとは限らないものですなあ。