久しぶりに芝居を観てきたのでありますよ。下北沢の本多劇場ですが、

下北沢の駅は昔から東西南北が判りにくく、出口を間違えるとたちどころに「ここはどこ?」と。

それが小田急線の地下化に伴って駅舎の大改装をやっているものですから、

これまでとは構内の通路の具合も訳が分からなくなっており…とどうでもいい話でした(笑)。


加藤健一事務所公演「ドレッサー」@本多劇場


観たという芝居は、加藤健一事務所公演「ドレッサー」。

ウェルメイド・コメディーの上演が多くあるものですから、加藤健一の芝居 は結構観てますなあ。

まあ、この芝居はコメディーといってはなんでしょうけれど。


第二次大戦下のイギリス、とあるシェイクスピア 劇団のお話でありまして、

若手俳優は戦争に行ってしまい、いささかポンコツな俳優陣とともに巡業してますが、

本日の公演では「リア王」が予定され、集客も上々という状況。


されど、主役のリア王を演じる座長が(あたかもリア王のように?)

時折虚実が分からなくなるような事態に陥り、セリフもろくに出てこない。

本人いわく何百回も演じているからと思い出しながら、口をつくセリフに

「それはリチャード三世」、「今度は夏の夜の夢!」とダメ出しのつっこみを付き人のノーマン。

彼は座長の付き人にして衣装方(ドレッサーですな)として、長年座長につき従っているのですね。


このシェイクスピア芝居から引用される数々のセリフは、

英国での上演であったならばノーマンが突っ込みを入れずとも

観客はにやにやしながらやりとりを観るのでしょうなあ、きっと。


とまれ、先にコメディーといってはどうよ的にも言いましたけれど、

基本的に座長とノーマンのやりとりはリア王と道化のやりとりに擬えることができましょうか。

元来の話自体が「リア王」ほどにシリアスではないので、笑ってしまうわけですが。


まあ、そんな具合に「リア王」の幕は開くのか開かないのか、

座長はちゃんと舞台をこなせるのか、舞台装置はまさにステージ裏の設定で

文字通りに「バックステージもの」として、舞台裏をのぞき見るお楽しみでもあるのですな。


ではありますが、見ていて「ん?!」と思ってしまったのでありますよ。

いったい主役は誰?と。


タイトルから考えればドレッサーたるノーマンこそと思うところですけれど、

どうしても「リア王」の舞台にあがるのに駄々をこねる座長の存在が大きく見えてしまう。

それこそ、この座長の役を今回公演の座長である加藤健一が演じておればむべなるかな。


しかしながらタイトルロールが必ずしも主役でないこともないではないことからすると、

座長には重鎮を置いて主役級のふるまいがあり、ノーマンには気鋭を配して

最前面には出ないとしても座長と拮抗させるという関係が作り出せればいいのでは。


30年前の「ドレッサー」公演では座長役に三國連太郎、

そしてノーマンに加藤健一があたったということを知ってみますと、

やっぱりそうだよねと思うところでありますよ。


残念ながら今回はどうも座長の目立ち度合が高すぎたようにも思えたのでありました。

映画版では座長をアルバート・フィニー、ノーマンにトム・コートネイというキャストで、

今回見た以上にシェイクスピア劇さながらの仕立てになっている気もしますが、

両者の関係をどういうバランスで描いているのか、機会があれば見てみることにしましょかね。


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