有元利夫という早世の画家(1985年に38歳で逝去)のことは、
2008年にBunkamuraのギャラリーであった版画展を見た折に、
「ああ、そうか」と思ったのでありました。
何が「ああ、そうか」と言えば、DENON・AliareレーベルのCDで解説書カバーに見られる
独特な雰囲気の絵がことごとく(?)有元利夫作品であったと気付かされたからなのですね。
手元にあるものを見つくろってみれば、このとおり。
いささか映画「天使と悪魔」のカメルレンゴ(ユアン・マクレガーがやってましたですね)を
思い出させるような装束をまとった人物が多くの作品に登場しますですが、
小さな顔に不釣合いなくらい大柄な体躯、腕も脚も異常に太く、どすこい感満載の下半身、
これだけでも十二分に印象的ではあります。
ですが、AliareレーベルのCDがピリオド楽器を使ったバロック から古典派あたりまでの音楽を
中心に扱ったものであったせいでもありましょうか、バロックあるいはそれ以前、
中世の時代の空気にマッチしたものと、その作品を受け止めていたのですね。
以来、版画ばかりでなく、実際に描かれた作品を一度は見てみようと思っていたわけですが、
昨年末から先月にかけて開催された「有元利夫展 天空の音楽」@高崎市美術館に
行こうと思いつつ果たせずじまい。
もしかして巡回展か何かとあれこれ検索しておりましたら、
何とまあ、東京に(ほぼ)有元作品専用かという美術館を発見。
ですが、たまに展覧会が開催されるとき以外はクローズしているということらしく、
いったい展覧会がいつあるのかを知るには小まめにHPを見るしかないという。
盛り上がりのいつしか冷めていき、小まめがだんだん間遠になって
いつしか何年もときが過ぎていく…なんつうことはままあることですけれど、
これが天啓とでもいいますか、ふとHPを見てみれば展覧会が3月2日から14日まで開催中と。
これは!と思って出かけたきた小川美術館での有元利夫展でありました。
改めてほんものの作品に接してみますと、第一印象どおりの古典的な装いには間違いない。
そして、わざわざ(だと思いますが)経年による薄れたように描かれているようでもあり、
また画中に塗り残しを作って、あたかも剥落したフレスコ画であるかのようにも描いている。
やはり相当に古典的風味を意識していたように思われるところではないかと。
ところが、最初に言いましたように(失礼ながら)不恰好な人物像は中世絵画にはありませんし、
人物描写もさりながら、遠近法のようなものも気にしていないのか、意図的に歪めてあるのか…。
もしも故意に歪めてあるとしたら…と思って、作品を見返していくと
なぜここを見てなかったのかというほどにはっきりした奇妙な点がたくさん思い浮かび、
ついつい連想はルネ・マグリットに到達。
有元利夫という画家はシュルレアリスト であったのかも…と思い始めたのでありますよ。
例えば、こんな絵があります(と、画像はありませんが)。
およそ完全に屋外にあると見えて、どこから吊り下げたものか大きなカーテンが
右側半分ほどを隠しているという状況。
中央にいはどこまで続いているものか、
見えない先は続いている(と想像される)はしご段を上っていく例の不恰好な人物が一人、
上り行く先はカーテンの陰になっているのですね。
カーテンで半分くらいが隠されている作品は他にもありましたし、
上の写真の右側などもそうしたもののひとつなわけです。
また、実物がショールというか、四角形の大きな布のようなものと持っている場面も
いろいろな作品に出てくるのですけれど、そのひとつには人物の背景にある雲と空が
その布にまったく写り込んだように再現されていたりするのでありますよ。
(雲の形が特徴的なので、それと分かる)
はたまた、やはり同様の人物が薄い雲のようなものに乗って浮き上がっており、
手元には透明な球体(中にはまたひとつの世界)を、「TRICK」の山田奈緒子がやるように
手を触れずに操っている…。
さらには、森の中で天上から降り来たった一条の光に手を添える件の人物などなどなど…
挙げていったらきりがないほどにマグリットやシュルレアリスム作品に相対したときと同じ
想像、空想を掻き立てる要素が満載でありました。
おそらくは単に古風さを描き出したのではないのだろうなあと思いますですね。
中世ならこそ信じられていたような「奇跡」的な事々を表しているのかもしれない。
中世に信じられた、そうした不可思議が描かれたと考えてみますと、
本物の中世絵画以上に中世を感じ、思いを馳せるような気もしてきたものでありますよ。
機会をうまくつかまえないとお目に掛かれない作品の数々、
まずは目出度い邂逅となったのでありました。