作曲家・シンセサイザー奏者として有名な冨田勲さんのアルバムに
「Dawn chorus」というのがありましたですね。
演奏はプラズマ・シンフォニー・オーケストラということになってますが、
しかしてその実体は宇宙からくるパルス信号を音源にして、
音楽(クラシックのアレンジもの)を奏でさせているという。
まあ、そうした直接的なアプローチとは別ですけれど、
昔の天文学者などにしてみれば、宇宙のことがだんだんと分かってくるにつれ、
宇宙は神秘というよりも整然と秩序だった、それこそ数式できちんと表せてしまえるような
調和のもとにあると分かってきたわけですね。
調和、すなわちハーモニーで成り立っているとなれば、
そうしたハーモニーを(イメージとしても)耳で聴くことができるかのように考えるのも
不思議ではないところかと。
「ドナルドの算数マジック」ではありませんが、
ピタゴラス も整数比によって音階が得られることに気付いたりもしてますし、
はたまたガリレオが宗教裁判によって幽閉された無聊を託つのにリュートを弾いていたとか、
科学者は音楽との親和性が高く、また音楽自体数学、数式と大いに関わるものでしょうから。
そうした天文学の発展あらばこそですけれど、
1719年の9月にドレスデンのザクセン選帝侯宮廷で侯家の婚姻祝賀にあたり、
「惑星の祝祭」なる一大イベントが展開されたのだとか。
当時、その存在が知られていた水星、金星、地球、火星、木星、土星に関して、
それぞれに日を設けて(今日は火星の日とか、明日は土星の日とか)
それぞれの日にはそれぞれの星にまつわる音楽を当代一流の音楽家たちの演奏で飾ったそうな。
例えば、木星の日にはラモーの歌劇「イポリートとアリシ」から「ユピテルの入場」が、
土星の日にはリュリの歌劇「フェアトン」から「サトゥルヌスの従者たちのエア」が演奏される…
といった具合に。
これにはヘンデルもテレマンも参加していたといいますから、
相当な大イベントであったことでしょう。
ところで、そんな「惑星の祝祭」の再現も構成の一部として、
ガリレオからニュートンへと続く天文学に関わるエピソードを語りで交えながら、
星々の映像が映し出される前でバロック音楽が演奏されるというコンサートがありました。
題して「ガリレオ☆プロジェクト~天空の音楽~」というもの
演奏はカナダの古楽器アンサンブル、ターフェルムジーク・バロック・オーケストラで、
この企画を2009年の国際天文年から始めてたそうですけれど、
天文学への貢献があったということで国際天文学連合では新たに発見された小惑星に
「ターフェルムジーク」との命名をしたのだそうです。
太陽の周りを回る惑星は西洋ではギリシア・ローマ神話の神々の名が与えられていますので、
該当する星々よりも神々に関わる音楽であって、そういう意味では冨田作品の方が
俄然宇宙に近いことになりますけれど、天文学史の啓蒙という点では評価が高いのでしょう。
また企画そのものも、映像があり、語りがあるものの、
演奏はいつもどおりにきちんとステージに収まってとなると印象は薄いかもですが、
それこそ神出鬼没とはいいませんけれど、メンバーが忽然と客席側に立って演奏を始めるとか、
工夫に富んだ構成になってまして、2階席奥から4本のヴァイオリンが鳴りだしたときには
それこそ天空から降ってくる音楽に包みこまれる心地ぞする…てな気がしたものでありますよ。
ちなみに演奏で強い印象を残したのがバロック・オーボエでしょうか。
モダン楽器ほどに輝かしさが無い分、ともすると「チャルメラか?」と思えてしまうところながら
実に味がある。
ですから、先ほど名前を挙げたラモーやリュリの曲でバロック・オーボエが歌い出すと
しみじみ聴き入ってしまったのですね。
「ガリレオ・プロジェクト」というネーミングが奇を衒い過ぎたのか、
あるいは子供向けとも思われたのか、会場の埋まりは必ずしも良くなかったですが、
複合的な興味を引き出す点でも面白い演奏会であったとは思うところでありました。
(これもちなみにですが、語りは「のだめ」の黒木くんでした…バロック・オーボエは吹きませんが)