「ガンズアンドローゼズ」とか「ガイズアンドドールズ」とかは聞き覚えがありましょうけれど、
はて「ゲンゲウントヘーフェ」とは?
それぞれ「Gang」、「Hof」の複数形でして、
「Gang」の方は小路、通路みたいな意味(ギャングの意もあるようですが)で、
「Hof」の方は本来的に中庭のことながら、転じて中庭のあるような大きな建物をもさすようです。
(駅をBahnhofというのは、鉄道用の大きな建物だからですかね)
ですが、リューベックでは(と言って、他の町にないわけではありませんが)
それぞれに独特の意味合いを持った場所を指し示しているようなのですね。
ちなみにGoogle mapでリューベック旧市街の北の方を見てみますと、
こんなふうに表示されます。
先に歩き廻ったエリアですので、
聖ヤコビ教会(Sankt Jakobi) もベーンハウス(Behnhaus) の場所も示されてますが、
白線で表示される普通の道路からにょきにょきと菌糸のようなものが伸びてますですね。
おそらくは、これがゲンゲであり、ホーフェでもあろうかと。
リューベックの街並みは、このトラヴェ川沿いの建物を見ても想像されるとおり、
実に間口の狭い建物がひしめいているふうでありますが、
間口は狭いけれど、奥行きがある、いわばうなぎの寝床的な敷地であるようです。
そして、その細長い敷地の奥側に職人たちの長屋を建てて、
棺桶くらいは通れるようにと最低限の幅で外の道に抜ける小路が造られた…
これが「Gang」だということでして、上の地図でいうと左側(西寄り)のエリアにこれが多いそうな。
一方の地図の右側(東寄り)に多いという「Hof」はやはり敷地の奥を利用する点では同じながら、こちらは、商人や船乗り(ハンザ都市リューベックの担い手たちですね)の夫を亡くして
寄る辺のなくなった奥方たちを救済するために造られた、つまり福祉事業なのですね。
ですから、「Gang」が通るのもやっとであるのに比べ、「Hof」はゆったりしていると。
こうした「Gang」や「Hof」を見て回るウォーキング・ツアーのようなものもあるようですが、
興味津々ではありながらも、これをやってしまうとまたしても一日コースになってしまいますので、
差し当たり「Hof」に絞って、いくつか覗いて歩くことにしたのでありますよ。
上の地図でいうと、グロッケンギーサー通りの辺りです。
まずはそのグロッケンギーサー通り25番地にあるという
「Füchtingshof」(フュヒティングスホーフ)を探すことに。
ここひとつだけは「地球の歩き方」にもはみだしみたいな形で記載があったので
有名なのでしょうね。番地を順々に辿って、すぐに見つかりました。
「見学可」のはずとはいえ、扉がワイドオープンでウェルカム状態を醸すでなし、
見るからに余所様の敷地に入り込む気がしてきますので、いささか臆するところながら、
えいやっと、通りに面した母屋の下を刳り抜いたような通路を抜けてますと…。
いやあ、何とも可愛らしい空間というか、何というか。
多くはお年寄りがお住まいでもあるようですが、花々の手入れも行き届いておりまして。
いかにも洋風を擬して可愛らしい建物を日本で建てようとすると、
あざとさが鼻についたりしますですが、これは微妙なところで踏みとどまって、
本格的に可愛らしい。なにしろ、本場ものですものね。
こういう感じであったか、「Hof」とは…と、
勝手に入ってしかられもしなかったことに気を良くして、次へ向かいました。
北ドイツに来るにあたってあれこれ読み飛ばした本の中にあったのだと思いますが、
むしろこちらのように、小さいながらも「ウェルカム的看板」が出ているの安心できますね。
とはいえ、現に住まっている方がおいでですから、静かに見て廻らんといけんですね。
ですが、あんまり静かにと思うと、動きがこそこそして反って怪しいかもですが。
先の看板に「Glandorpshof und Glandorpsgang」とあったとおり、
こちらは「Hof」と「Gang」の複合体であるようす。規模が大きそうです。
石畳の通路の奥の方まで行って、
ああでもないこうでもないとアングルに拘って写真を取ろうしておりましたら、
通りからの入口を抜けてひとりのおばあさんがこちらへやってくる。
たぶん何も悪いことはしてないはずなんですが、
バツの悪いところを見つけらえたような気にもなり、そそくさと引きあげにかかると
そのおばあさんが手を振り上げて何か言っている。
立ち去るにもおばあさんとすれ違わねばなりませんから近づいていきますと、
どうやら奥の方を指して「Weiter!Weiter!」と言ってくれてたのですね。
「もっと奥があるよ」と。
そこで「Darf Ich?」(いいんですか?)と尋ねれば、
にっこり頷いて、「Hübsch, hübsch」(きれいよぉ~)と仰る。
そこで踏み込みかねた細道の方へ進んでみたですが、
それが「Gang」の領域だったのでありましょうね。
こちらでもまた花々の手入れに余念のないようすが窺え、
見に来てくれる人がいる、そのために見せる、見てもらうことを喜びともしているのでしょう。
しかしながら、写真はどうもうまくいかなかったようですので、
「Hof」とはちと異なる「Gang」の雰囲気だけでも捉まえていただければと。
てなふうにこうしたエリアをひと回りしたですが、
歴史的建造物の保存と現在進行形の生活、
そしてさらには観光までも融合してあるというのは素敵なことですなぁ。
最後にたどりついたのが、福祉的なことの考えられたエリアだからでしょうか、
聖霊病院でありまして、たぶんに救貧院的な役割もあったのだろうと思われます。
(たぶん、メルンでティル・オイレンシュピーゲルが聖霊病院に入ったのも同様ですね、きっと)
聖ヤコビ教会前の広場から見た正面は工事中でしたので、
裏側に廻ってその歴史ある建物の雰囲気でもって、
リューベック「Hof」巡りのおしまいといたしましょう。