先ごろ読んだ「官僚ピープス氏の生活と意見 」の中に、
こんな一節が出てきたのですね。英蘭戦争さなかのことです。
中立国ノルウェイ(当時はデンマークが支配していた)のベルゲン港の奥にオランダ東インド会社の貿易船団が碇泊しているとの情報を海軍事務局が把握した。東インド貿易の商船は高価で多種多様の香料、香辛料等を積載していて、捕獲すれば莫大な利益になるので、英蘭は相手国の商船を捕らえようとしのぎを削っていた。
当然に英国艦隊もベルゲン港でのオランダ 商船捕獲を目指したものと思いますけれど、
どうやらこの一件では目的を果たせずに終わった、つまりは失敗だったようです。
ではありますが、英軍の側がノルウェー の港湾に進攻して失敗したあたり、
およそ300年後になって英軍は雪辱を果たしたのでは…と思い至ったのですね。
相手はオランダではなく、ナチス・ドイツ ですが。
ナチス占領下のノルウェー、
フィヨルドの狭い谷となった湾奥部にV2ロケットの燃料基地があるとの報告が
レジスタンスからもたらされた。
放置すればロンドン は大空襲に遭うこと必至と、
狭い湾に低空で進入し、両側の崖からの対空砲火を交わしながら
最奥部の基地を爆撃する作戦が立てられるも、
死の覚悟なくしてはとても成し遂げられそうにない。
どこまでが史実かは分かりませんけれど、
史実をベースに「633爆撃隊」という映画が作られていて、
それを思い出したと、まあそういうわけです。
映画の方は、爆撃隊長のクリフ・ロバートソンが「いいとこ、とってんねぇ」である一方で、
レジスタンスのリーダーがジョージ・チャキリスとは
「どう見てもノルウェー人に見えませんけど…」的な。
それはともかく、フィヨルドを通って爆撃に向かうシーンですが、
これはこれで見たときに「これって?!」と思うものがあるのですよね。
何を隠そう、「スター・ウォーズ」でありますよ。
シリーズとしては「エピソード4」でしょうけれど、
とにかく初めての「スター・ウォーズ」のラストのあたり、
敵の砲撃を交わしながら、デス・スターの狭い溝を通ってルーク・スカイウォーカーが
デス・スター中心部への爆撃を敢行する…
これって、まんま「633爆撃隊」なのではありませんか。
気になってあれこれ調べると、
ジョージ・ルーカスは「633爆撃隊」を意識してこのシーンを撮ったてな話も。
こうしたことも、オマージュなんでしょうなぁ。
オマージュといえば、これまた最近見た映画ですが、
スティーヴ・マーティン主演の「四つ数えろ」というもの。
話として面白いかはともかくも(ということは…)、
タイトルからしても「三つ数えろ」のパロディーということが分かりますけれど、
そも「三つ数えろ」はレイモンド・チャンドラーの「大いなる眠り」を原作として
フィリップ・マーロウ役をハンフリー・ボガートが演じたハードボイルド作品でありますね。
「四つ…」の方はスティーヴ・マーティンがハードボイルドらしき私立探偵を演じて、
ハンフリー・ボガートを下働きに使うという設定。
ですが、このハンフリー・ボガートの登場シーンというのが、
それこそ「三つ数えろ」など過去の映画からのシーンをそのまま持ってきて、
本編の中に違和感なく織り込んだもの(その点ではシナリオの工夫でしょう)。
しかも、そうした織り込みシーンに登場する俳優陣たるや、
ボギーの他にもケーリー・グラント、バート・ランカスター、カーク・ダグラス、レイ・ミランド、
イングリッド・バーグマン、エヴァ・ガードナー、ジョーン・クロフォードなどなどなどと実に多彩。
基本的にはしょうもない映画ではありますけれど、
織り込まれるシーンひとつひとつにきっと思い入れみたいなのがあるのかなと思ったりして、
パロディーもやっぱりオマージュなのだろうと思うところです。
作り手の思いと創意工夫を感じますから。
ただ、何せ古い映画ばかりを織り込んでくるものですから、
出典が分かるのはほんのわずか…ですが、最後の最後まで見通していれば
おしまいのところでちゃあんと出典紹介がされますのでね、良心的といえば良心的。
とまれ、クラシック音楽が聴き続けられているように、
また古典文学が読み継がれているように、とは大仰ですが、
古い映画もまた良き哉でありますよね。