このたび静岡を訪ねてどこをどのように見て歩こうかとあれこれ検索などをしておりますときに、
駿府博物館が移転することになったと知ったのでありますよ。


静岡駅 からほど近い現在の場所では最後の展覧会として、
所蔵品蔵出しのコレクション展が開催中と知ったからには「行っておかねば!」と。

題して「コレクション展Ⅰ四季讃歌」という日本画 を中心とした展示でありました。


と、もっともこれを書いている頃には「コレクション展Ⅱ黒白の美」という
水墨画と書 がメインの展示に切り替わってしまってますが…。


「コレクション展Ⅰ四季讃歌」@駿府博物館


とまれ、日本画の展示をじいっくり眺めておりましたら、折しもギャラリートークのお時間に。
何せこぢんまりとした展示室だものですから、
その場にいる限りは参加してさしあげないと申し訳が立たないような状況。
他に焼津から来られたというご家族三人連れに自分が加わっただけなのでした。


と、そのご家族が焼津から来られたとは、直接に話を聞いたからではなくして、
学芸員の方から「今日はどちらから」と訪ねられての応えでして、
同じ質問が降ってきたものですから「東京から」と言いますと、
一同から「わざわざぁ?」という声なき声が返ってきたような…。


まあ、学芸員の方がこれを訪ねたのも
最初に説明する作品が「駿府鳥瞰図」という作品だったからでもありましょうか。


土佐光成「駿府鳥瞰図」(本展フライヤーより部分)


江戸期、宝永四年~七年(1707~09年)頃の駿府の街並みを忠実に描きだした作品だけに、
「ここが駿府城で、こちらの方にはおせんげんさん …」云々と、
今でもだいたいどこがどうと分かる作品ですね…という、地元っ子へのツカミ作戦でありますね。


「東京から来られたとすると、想像しにくいかもしれませんが」とは

慰めのひと言だったかもですが、駿府博物館にたどり着くまでに

めぼしいあたりは歩きまわった後だけに問題なく把握できてますけど…とは、

心の声だけにしておきましたけれど。


ところでこの駿府博物館ですけれど、これまた学芸員の方曰く、よくある問い合わせで

「徳川家康に関係した史料なんかが展示されているのですか」と尋ねられるそうな。

返答としては「駿府にある美術博物館なのですよ」ということになるらしい。
名前が名前ですから、当然に予想される問い合わせだろうと思いますですね。


実際のところは、

静岡新聞・静岡放送の創業者が収集した日本画、書、版画等を展示する美術館で、
現在の所在地は静岡新聞SBS紺屋町別館という建物ですが、

かつての新聞社社屋であったそうですね。


展示室はワンフロアで、天井が低く、いかにも昔の建物というふうながら、
フロアの奥側に部分的に天井の高さが違うところがあって、
昔はそこがフロア打ち抜きの吹き抜けになっており、

新聞印刷の巨大な輪転機が鎮座ましましていたとは
こりゃあ話を聞かないと分かりませんでしたですねえ。


ギャラリートークでは日本画の特徴を西洋画との比較で話してくれてましたですが、
ひとつには日本画の構図の大胆さというのに気付いてみると、実に面白いものですよね。


西洋画ではおそらくカメラが登場して初めて、敢えてフレームで対象物を切り取り、
見えない部分を想像させるというやり方をタブローに持ち込んだのではと思うところですが、
日本画ではごくごく普通に行われてますし、それどころか、広重北斎 もそうですが、
意外なものを極端クローズアップして見せたりすることから生まれる対比の妙など
かなり独自の世界を切り拓いていたわけです。


ちなみに移転前最後のスペシャルサービスでしょうけれど、
所蔵品複製画の色紙とやはり所蔵作品を配した一筆箋をいただきました。


駿府博物館移転前のスペシャル・サービス?


入館料として払った300円では買えない品物を頂戴したわけですが、
この一筆箋を飾る作品が伊東深水作「吹雪」で、同館随一の別嬪さんなのだそうでありますよ。


伊東深水「吹雪」(駿府美術館一筆箋)

鏑木清方に連なる美人画の名手である深水ですけれど、
どこかしらで深水展が企画されるたびに貸出依頼が来るために、
所蔵元である駿府博物館でも必ずしも見られない売れっ子なのだとか。


先ほどの日本画云々のことで言えば、タイトルから「吹雪」と分かるものの、
吹雪という気象状況そのものはおよそ描かれてはいませんですね。


ですが、傘を細めにして俯きながらしっかり押さえているようす、
そして着物に散らされた粉雪でもって、吹雪が描きだされているという。
何やら川端康成 の小説を思い出したりしてしまうところでもあろうかと。


一方で、色紙でいただいたものは児玉希望作の「富嶽春晴」という作品。


児玉希望「富嶽春晴」(駿府博物館色紙)



実は今回の展示でいちばん気になった作家が児玉希望でだったのでして、
この、きれいで可愛らしくかつ雄大な富士山もいいですし、
「晩秋」という作品に描かれた鶉の胴体のぼかしの妙、
ともするとシュールにさえ思える草木のさまなどを見ていると
もっともっと作品に触れたいと思うのでありました。


登呂の方への移転後は2014年10月オープン予定(遅れそうと言ってました)だそうで、
その際にはまた違った児玉希望が見られるようになるやもしれませんですね。
楽しみです…って、またの静岡行きはいつだか知れませんが。