伊豆富士見紀行 でもって富士山、富士山と言っていて思い出しましたが、
東京・有楽町の東京国際フォーラムで「新富嶽三十六景」という展覧会をやっており、
これを見てきたというお話であります。


西斎「新・富嶽三十六景」展@相田みつを美術館第2ホール


「富嶽三十六景」と言えば葛飾北斎の代表作とも言える作品集で、
「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」あたりはよく見かけるところではなかろうかと。


では「新・富嶽三十六景」とは?

「富嶽三十六景」の受けの良さに釣られて北斎が作った新シリーズ?
いえいえ、作者は北斎ならぬ西斎という人。

これが本名をピーター・マクミランと仰るアイルランドご出身の方なんですなぁ。


なんでもマクミランさんは日本文学、取り分け古典詩歌の研究者で、
小倉百人一首の英訳などを手掛け、日本の大学で教鞭もとっておられる由。
そうした方が北斎もじって西斎と名乗り、富士を描いた作品展というわけです。

(さすがに浮世絵の技法で作っておられるわけではないですが…)


北斎作品は富士を観望できる場所を変えながら、その場所その場所の特徴とともに
その場所ならでは富士の見え方を描きだしていますけれど、
西斎版はかなり捻りのきいた作品になってますですね。


典型的なのが、北斎の「神奈川沖波裏」のもじり、「神奈川沖波表」という作品。

北斎作は多くの方がすぐに思い浮かべられるものと思いますけれど、

一応見ておくとしましょう。


葛飾北斎「富嶽三十六景より「神奈川沖波裏」


和船を翻弄する大波の間から覗く富士のお山というこの絵を見て、

すぐに誰もが西斎さんと同じ発想に辿りつくかというと、

たぶんにコロンブスの卵的で「なるほどねえ」と思うところかと。


で、西斎版「神奈川沖波表」はどうなっているかと言いますと、

「波裏」でない「波表」なだけに、富士山がもそっと手前の感じ、

つまり波の中にすっくと立っているのでありますね。

たちどころに地球温暖化から生ずるやも知れぬ海面上昇をイメージすることになります。


他には富士山がカップヌードルの器のデザインで描かれた「カップヌードル富士」。

西斎さんによれば「カップヌードルは日本のファストフード文化の象徴」ということで、

ある意味、日本の象徴でもある富士山にそのデザインを被せてしまった…らしい。


こうした捻りをきかせた作品が並んでいたわけですが、

いかに日本文化の研究者とはいえ、「この受け止め方は…?」と思わせるものも。


日米の友好関係を表しているとする「星条旗富士」。

見た目、まんま星条旗である中の左上部分、アメリカの州の数だけ星が配されるところの、

右下のひとつが星マークの形の代わりに富士山の形になっている…。


通常赤白の帯になっている星条の「条」の部分は、白のところを金箔の帯として

「日本画の象徴である金箔の面積は画面のちょうど半分に相当し、対等なパートナーシップ」を

表現しているようなんですが、さて。


他の国の方が無意識にも(否、対等なパートナーシップを意識してなお)

日本を星条旗の星のひとつとして描きだしてしまうのか…と思ったりしたですよ。

(かといって、独自の安全保障が必要だとかという話では全くありませんが)


何かしら世界の中のひとつとしてならば、さほどの思案にもつながらなかったと思いますが、

これもまた、日本の見え方のひとつなんですかね。

思いもよらず、「う~む」と思ってしまいましたですよ。