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その2 母の手術結果

 どうやら母は以前から胃の辺りが痛かったらしい。辺りとは言っても本人は胃癌と決めつけていた。というのも母方は、祖父と叔母の二人が癌で他界しており癌家系という認識があった。そして母は妹にあたる叔母の癌治療の凄惨さを見てきたことで「私が癌になってもあんな治療は受けたくない。手遅れで発見され、たいした治療もされずに死にたい。」と思っていたそうだ。それでかなりの痛みがあったが医者には行かず胃薬を飲んで過ごしてきたそうだ。胆石の痛みだとは知らずに・・・
 手術設備のある病院に移り、手術前の検査としてCTやMRIなどを受けた。結果説明で医師は
「胆石の他に特に心配なところはありません。膵臓の映りが多少弱いのはスポンジ化の傾向があるからでしょう。膵尾部(膵臓の後端部)に水球状のいわゆる良性腫瘍があるようですが、今回の手術でいっしょに取ってしまいましょう。」
と言った。初めてみる体内の画像は学生時代にならった“体の仕組み”の記憶と照らし合わせてなんとなくわかる程度のものだった。まあ、医者がたいしたことなさそうに言うのだから手術を受ければいいということだろうと理解した。
 迎えた手術の日、支度を終え移動用ベッドに横たわった母が手を差し伸べてきた。妻はがんばってと手を握ったが、私は「この世の別れでもあるまいし」と少し笑って拒否した。そのせいでは当然ないはずだが、手術中に主治医が私を呼んで信じられないことを言い出した。
「胆嚢はこれです。中にはこのように石が入ってました。それで、膵臓のほうなんですが、多少スポンジ化していると思っていましたが、すべて癌細胞におかされているようです。正式には組織を詳しく調べる必要がありますが、私の見たところでは癌に間違いありません。腹膜にも無数の転移があり、残念ですが膵臓を取るよりはこのままにしてあげたほうがよいと思います。」
どう判断してよいかわかるはずがない。医師の判断に従うしかないじゃないか。手術後医師は
「正式な結果は5月頭にはわかります。それで、癌だったとした場合今後どうするかということを考えておいてください。考えられるのは延命効果を狙った抗癌剤投与や放射線治療などを受けるか、あるいはこのまま病気の進行にまかせるか。医師の私がいうのも申し訳ありませんが、あまり効果が見込めない延命治療をするよりは、胆石から開放され、ここ1・2ヶ月くらいは快適な生活が送れると思うので、このままというのが本人のためという気がします。それと、本人に告知するかどうか。」
「実は今回のことは関係なく、母は常々“癌治療は受けたくない”と言っていたので、基本的にはこのままにさせてあげたい。本人には告知はしないでください。」
そうは言ったものの迷っていた。それにこの医者の見込み違いってこともあるとも考えていた。とりあえず母には膵尾部の水球を取らなかったことを言い訳する必要ができた。麻酔からさめた母に
「膵臓のほうは問題なさそうなので、そのままにしたってよ。」
まあ、無難な言い方か。しかし親に嘘をつくのは心が痛む。しかも癌であることを隠さなければいけない。父には本当のことを話したが、当然ショックを受けていた。
 母は入院中だったが、5月連休を迎えたのでいつものように妻の実家に帰省した。行かなければ“重い病気では?”と母に疑念を抱かれるのではという気遣いもあった。そのせいで、検査結果は電話で聞くことになった。
「残念ですが、やはり癌でした。もって3ヶ月といったところでしょうか。」
天井がぐるぐる回っている気がした。しばらく動けなかった。父に結果を連絡すべきか少し迷ったが、事実は伝えなければと電話した。
「やっぱり癌だってよ。」
「しょうがないな。」
だれでも予想外の不幸に見舞われたらそんな言葉しか出ないだろう。父の声を聞いて逆に私が少し落ち着くことができた。そして連休は終わり、母も無事(?)退院した。