モニタースピーカーとは、録音時に技師や演奏家が聞くためのスピーカーのことである。
かつて、モニタースピーカーの音には国籍が存在した。
例えばNHKが20世紀に正式採用していたダイヤトーン社の2S305(別名R305)というスピーカー。これは、とてつもなく美しい音の出るスピーカーシステムだった。
残念ながら、現存しているこれらのスピーカーの多くは壊れていて専門的な修理を必要としているのだが、修理を行う技師も、歪んでいる事に気づく耳を持ったリスナーもいないという状況に陥っている。
とはいえ、完全な状態で聞くこのスピーカーの音は、とてつもなく滑らかで、子音と母音の結びつきが実に自然な音を奏でるのである。特に子音と母音の結びつきの強い日本語においては、その特徴は遺憾なく発揮され、このスピーカーを聞いた後で聞く他のすべてのスピーカーが、すべてハスキーに聞こえてしまうほどだ。海外の著名なオーディオ評論家の中でも、「史上もっとも美しい音がするスピーカー」と言い切る人がいるくらいだ。
音の強弱はダイナミックで、1台で凄まじい音量を稼ぐこともできた。モニターとしては、かなり情動的な部類に入るスピーカーだろう。
NHKではホールでのハウススピーカーにさえこのスピーカーを使っていた。おそらく20世紀の間はAMラジオ以外は、ほとんどこのスピーカーでモニタリングしていたのではないだろうか。日本の音と文化を根底から支えたスピーカーであったと言っても過言ではない。
当時も現在も、音楽再生において一流品と認められた国産のスピーカーは、片手の指で数えるほどしかない。
このスピーカーは物理特性も2WAYシステムとしては世界最高で、特性面と音質面の両面で世界のトップを走っていた。
しかし、この製品もついに生産されなくなり、メーカーの修理も受け付けなくなってしまった。そして、ここ10年ほどで、わが国のアナウンサーの発音は大きく様変わりした。これはスピーカーの変更と大きな関連性がある。
グローバル、グローバルと人は言うが、世界のどこに行っても、同じような価値観の人々がいて、同じような思想で統一されることがグローバルなのだろうか。
人類ひとりひとりが真に自由な発想をもち、人々が互いの違いを許しあうことが真のグローバルだったはずなのなのだが。