今年で結成39周年(40年目)を迎える、私が1986年に興した映画制作団体の名が「イチヱンポッポフィルム」。その語源は、今から135年前から広島県尾道市と向島とを結ぶ福本渡船の地元愛称に由来する。大学時代、同じ寮に『さびしんぼう』に登場する西願寺(尾美としのり演じる主人公の実家の設定)を菩提寺にする同級生がいて、ずっと交友が続き、私の広島帰郷後最初の映画制作に手伝いに来てくれた際、私が敬愛する大林宣彦監督の『さびしんぼう』にマドンナ(富田靖子)の通学手段として印象的に登場する福本渡船の地元の愛称が「1円ポッポ」であることを教えてくれて、それで短絡的にもその愛称を拝借して、団体名にしたのである。その後尾道市に要請されて同地で8ミリ映画の上映会(“おのみち8mフィルム・フェスティバル’99”サポートイベントの「Hiroshima発Indies Movie in おのみち」)の実施した時、ウチの団体名を見て鼻で笑った現地スタッフがいたっけ(;'∀') ちなみに、敢えてワ行の「ヱ」としたのは、「円」がヤ行の\en(Yen)なんで、それを意識させるためだった。
そんな「1円ポッポ」こと福本渡船が、この3月31日に、135年にもわたる歴史の幕を閉じることを昨年末団体メンバーからの情報で知った。その事実はあまりに衝撃的で、「ならば必ず健在なうちに『1円ポッポ』の勇姿を映像に収めなければ」との思いに駆られた。
当初は、その頃まだ撮影が“現在進行形”だった『AKI AgentAngel 』に絡めて、たとえストーリーのつじつまが合わなくても、ラストのアキと忍の絡みを、二人が福本渡船に乗って演じる、なんてプランも考えたが、流石にそんな余裕はなく、私が単独で「1円ポッポ」の姿を映像に残すのみとなった。
本来ならば、乗船者に記念品が配られる30日に向かう方がよかったが、あいにくこの日には用事が入ったため、廃業3日前の今日29日に、「1円ポッポ」との最後の別れをしに、一路尾道に向かった。道中、『こんな学園みたことない!』のさやか先生こと奥田圭子さんの故郷・三原市のステーキハウス・ラジャでビーフカツランチを喰って腹ごしらえし、現地に到着したのは午後1時過ぎだった。駐車場を見つけるまで若干手間取ったが、何とか駐車して、カメラバックと三脚抱えて、福本渡船の波止場へ。
最初に桟橋の近くに三脚据えて渡船の航行の過程を数回撮ってから、船着き場に足を運んだ。そこでは集まった人々が口々に「1円ポッポは」「1円ポッポが」なんて話しているから、「イチヱンポッポ」の主催者としては、何だが幸せな気分になった(^-^;
今回は、「1円ポッポ」が波止場を出発して対岸に向かうまでを一本の構成映像に編集しようと考えていたので、波止場で渡船が出港する過程を撮ってから、いよいよ乗船。実は乗船の仕方を知らなかったので、波止場にいた如何にも地元の人といった雰囲気の方に尋ねたら、有難いことに、実に丁寧に説明してもらった。きっと渡船を「自分の足」にしていた方だったのだろう。
そして乗船。早速船上から離れていく尾道市の街並みや、近づいてくる向島の景色、そして『さびしんぼう』の劇中、ヒロキ(尾美としのり)と橘百合子(富田靖子)が対峙していたと思しきデッキや、エンディングでさびしんぼう(富田)が主題歌を歌いながらパフォーマンスをした場所と思しき場所を必死に映像・画像に収めた。福本渡船はこの一隻しかないから、もし1984年と同じ船ならば、この場所に富田靖子が尾美としのりが佇んでいたはずだ。そう思うとテンションも上がったものだった。思えばこれだけ恋い焦がれ、且つ愛称を団体名にも拝借した「1円ポッポ」なのに、乗船したのは今回が初めてだった(らしい)ヾ(- -;)
向島についてからも、改めて渡船の航行の様子をしばらく撮影し、再度乗船して対岸の尾道に向かった。最後に当方の”IPFマーク”のテロップに合わせられるような航行シーンを撮って、万感の思いを引き摺りながら波止場を、尾道を後にした。
大林宣彦監督が意図的にフレームから外していた「尾道城」は別として、『転校生』で象徴的に登場する旧尾道駅駅舎も今や消失して久しく、『さびしんぼう』の福本渡船もなくなっていく。件の大林監督や古くは林芙美子が通った土堂小学校も合併の憂き目にあう。映画人にとって、増してや自主映画人にとって、まさに”心の聖地”であった尾道の街から、どんどんその”聖地”たる原風景が消えていくことに、寂しさを禁じ得ない。とりわけ「1円ポッポ」の消失は別格だ。もうあのヒロキと百合子のつかの間のロマンスは、西願寺下の三差路(それとて祠は失われた)や向島の曲がりくねった坂道にその残滓を残すのみである。
かく言う私もこの先いつまでこの世に存在できるか、甚だ怪しいものであるが、41年間の映画制作の過程で「広島ナタリー」「広電地御前駅旧電停」(『いつも見ていたヒロシマ』)「宇品線」「旧宇品港」(『午下がりのシンデレラ』)「旧広島駅界隈」(『スケバン刑事広島版』『もっと、素直に…』)「旧広島市民球場」(『AGAPE』『市民の敵は場外へ飛ばせ』)「観音の広島空港」(『AGAPE』)「太田川放水路の上空を飛ぶジャンボジェット機」「広島朝日会館」(『シューリンクス』)「マリーナホップ」(『AKI AgentAngel 』)など、失われた広島の原風景を映像に収めてきた。いずれ全てデジタル化して、私より若い世代に託したいと考えている。
ところで、件の福本渡船は、明日31日までは航行を続ける。しかし2025年度以降は……今後「イチヱンポッポフィルム」の語源をどう説明したらいいだろうか……
見ているだけでほっと安らぐものは?
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