去る15日、“いつもの”イオンシネマ広島西風新都で『木挽町のあだ討ち』を観賞した。先月『テレビショッピングの女王 青池春香の事件チャンネル』を観賞した時に本作の予告篇を観てから、ちょっと気になっていたので、「月に一度は劇場で映画観賞」の2026年3月の作品と相成った。その感想は……実に“粋”で素晴らしく、心底ハッピーにしてくれるエンターティメント作品だった(^_^) その理由を以下に記す。

※物語の“肝”には触れないものの、多少“ネタバレ”もあるので、読むときはご注意を!
今から216年前の文化7年睦月、江戸・木挽町にある歌舞伎の芝居小屋・森田座で『仮名手本忠臣蔵』が千穐楽を迎えた。舞台がはけ、家路を急ぐ観客の目の前を、一人の赤い振り袖に身を包んだ若い女性が横切る。それを見初めたのが、ここ最近の挙動で有名になった、街で評判のならず者・作兵衛(北村一輝)。ストーカーのごとく女性の後を追う作兵衛の姿に、人々は注目する。やがて女性は森田座裏の空き地までやってくると、ゲスな声をかける作兵衛を見つめるなり、いきなり振り袖を脱ぎ捨てる。中から出てきたのは、女装で身を隠していた、美濃遠山藩士である白装束の若き侍・伊納菊之助(長尾謙杜)。実は作兵衛は嘗て伊納家に仕えていた下男で、突如乱心して我が息子・菊之助を斬りつけた父・伊納清左衛門(『侍タイムトリッパー』の山口馬木也!)に対し、菊之助をかばって図らずも清左衛門を死なせてしまった男なのだが、菊之助は「亡き父の仇」と仇討ちを始める。それを「こいつぁ本物の仇討ちだぁ!」と焚き付ける森田座の木戸芸者・一八(瀬戸康史)。彼の声に促されて、多くの人々(歌舞伎帰りの200人近い野次馬)が仇討ちを見守る。しばらく激しい戦いが続いた中、共に近接する掘っ立て小屋になだれ込んだ後、作兵衛の断末魔の悲鳴と共に、血まみれの菊之助が、作兵衛の生首を手に、掘っ立て小屋から姿を現す。その生首は即刻奉行所の見聞にかけられ、晴れて"仇討ち"と認定され、菊之助によって江戸の某所の雑木林に生首は埋葬され、その遺髪だけが江戸の美濃遠山藩屋敷に届けられた。この一件は「木挽町の仇討ち」として、「忠臣蔵」の如く、江戸の評判となった。
それから1年半後、「菊之助が義理の弟」と名乗る、美濃遠山元藩士の浪人・加藤総一郎(柄本佑)が、江戸の森田座にやってくる。彼には、"虫も殺さないくらい優しい"菊之助がどうしてあんな凄惨な仇討ちを完遂できたのか、という疑問と、同じ遠山藩士として弔ってやるために作兵衛の生首のありかを知りたいという、二つの思いがあり、そのため、森田座の一八、殺陣師の相良与三郎(滝藤賢一)、女形の二代目芳澤ほたる(高橋和也)、手練れの小道具方・久蔵(正名僕蔵)と、片っ端から内偵を始める。森田座には、座を束ねる、元遠山藩士で今は立役者となった篠田金治(渡辺謙)がいるが、今は上方(大阪)に行っていて不在。加藤の"人垂らし"ぶりと、彼の真意を測りかねる森田座の面々は、彼を警戒する。
実は総一郎は浪人ではなく、今も遠山藩士であった。彼と菊之助の父・清左衛門は、遠山藩の家老・滝川主馬(石橋蓮司)の横領の不正を見抜いており、その摘発に尽力し、ようやくその証拠を掴んだのもつかの間、逆に清左衛門が主馬の策略によって横領の濡れ衣を着せられる。ここで清左衛門が詰め腹を切らされては、伊納家は断絶の憂き目に遭い、主馬の不正も闇に消えてしまう。そこで清左衛門は窮余の策として、乱心のふりをして下男の作兵衛に討たれて死に、その作兵衛に不正の証拠を持って江戸に向かわせ、その証拠を後に総一郎に渡してから、"仇討ち"として菊次郎に討たれて欲しいと、作兵衛に懇願する。"仇討ち"を成就すれば、國の英雄として、お家断絶も免れ、家老といえども菊之助に手出しできなくなるからだ。逡巡の後、清左衛門の意向を承諾した作兵衛は、"あの日"清左衛門の段取り通り、乱心を演じる彼を制止し、菊次郎の死角で自らの首をかっきる清左衛門を見届けた後、伊納家を美濃を後にする。
ようやく上方から戻ってきた金治は総一郎の素性を既にお見通しだった。金治もかつては元遠山藩士で、後に菊次郎の母となるたえ(沢口靖子)の許嫁だったが、結局立役者に身をやつした結果、婚約は破談となり、たえが清左衛門と結婚したいきさつがあった。そのため、彼女の息子である菊次郎が仇討ちの半年前、金治を頼って森田座に来た時も丁重に扱い、森田座の"黒子"という立場も与えてやった。金治、そして森田座の面々の前で、遂に素性を明かず総一郎。彼が作兵衛の生首を探していたのは、それと一緒に安置されているであろう主馬の不正の証拠書類を手に入れるためだった。本来ならば仇討ちの前に作兵衛から受け取るはずだったのに、主馬に捕まって長い間城内に幽閉されているうちに、みすみす仇討ちの瞬間を美濃で迎えてしまったことを、総一郎は大変後悔していて、作兵衛のためにも何とか不正の証拠書類を受け取り、美濃藩の真の仇敵・主馬を断罪したい、との思いを告げる。その一部始終を聞いた金治は、「生首ならある」と嘯くと、久蔵に命じて、なんと森田座の小道具置き場から「作兵衛の生首」を持ってこさせる。この瞬間から、この物語は全く予想外の結末に、急激に展開していく。
本作で我が“琴線に触れた”設定が二つある。まずはこの森田座が芝居構成から衣食住に至るまで全てを完備し、300人近い関係者を抱えた“一つの街”“一つの国家”として成立している点だ。あたかも「太秦」や「大船撮影所」のような往年の映画撮影所を彷彿させて嬉しくなってしまった。また、この森田座の面々が、遊郭の女郎を母に持つ“父無子”の一八といい、希代の剣豪ながら道場の跡目争いでの不正がいやになり武士を捨てた与三郎といい、孤児で埋葬人の老人に育てられ先代の女形に拾われたほたるといい、そして立役者の金治でさえ元遠山藩の浪人という、彼らの設定が実にアウトローな点も、“プロ野球”崩れのジャイアント馬場や“角界崩れ”の天竜源一郎や田上明、寺西勇、木村健吾、北尾光二、ジョン・テンタ、“柔道崩れ”(とは言いがたいかも知れないが)の坂口征二、小川直也、橋本真也、“アメフト崩れ”のハンセン、ベーダー、ブロディ、ロック(ドウェイン・ジョンソン)といった“アウトロー”の集団である「プロレス界」と酷似していてユニークだった。いずれにせよ、「映画界」「プロレス」という、私にとって大好きな世界と、本作の世界観が似通っているのも、本作に惹かれる理由かも知れない。
予告篇から推測するこの物語のイメージは、「事件解決に奔走する総一郎の正義を、金治率いる森田座の闇が徹底的に妨害し敵対する」そんな重苦しいサスペンスかと思っていた。だから観賞にはちょっと気が引けたのだが、実際森田座の面々は、当初想像していたような「金治は悪の首領で一八、与三郎、ほたる、久蔵は悪の大幹部」ってイメージの如く振る舞うんだけれど、「作兵衛の生首」が登場してから、いきなり「金治は“ビッグワン”で4人は“ジャッカー電撃隊”か?」ってノリの展開になってきたよ(^^ゞ もっともチラシには最初から「その真実が紐解かれる時、人の情けと驚きが感動を呼ぶ」「やさしい嘘に包まれた、心温まる爽快な逆転劇」って惹句が書かれていたんだけどね……すっかり見落としていたよ(^^ゞ(^^ゞ
主演の柄本佑は、もともと父親譲りの怪しげな野暮ったさばかり目立つ俳優と認識していたが、やはり大河の『光る君へ』の藤原道長役が転機となったか、怪しげな雰囲気と言うよりもつかみ所のない味のある演技という点でまさに老獪な味わいのある父親・柄本明を彷彿させる、それでいて見事なまでに"人垂らし"ぶりを発揮して、"安心できる"主人公像を熱演していた。菊之助役の長尾謙杜の振り袖(女形)姿には目を奪われるくらいの妖艶さを感じたし、瀬戸康史に木戸芸者を、滝藤賢一に元剣豪役を演じさせるキャスティングの妙も見事だった。元「男闘呼組
」の髙橋和也に女形を演じさせる"出オチ"のような配役にも唸らされた。また、渡辺謙は見事と言うより他にない貫禄ぶりだった。菊之助の母にして、武家の妻とお嬢様の気品を漂わせる沢口靖子の役柄も絶妙だった。そして何よりも、作兵衛役の北村一輝が最高だった。「外見は"ろくでなし"だが本当は……」って役柄には、ヒール役が板に付いた彼は正にて適役! メイキングで渡辺謙から散々「この役は俺がやりたかった」と言われ続けたらしいが、まさに"おいしい役"を彼だからこそ説得力十分に演じきったと思う。
クライマックスの、森田座の面々の回想による「仇討ち」の再現というクライマックスは、まるで彼らが仕組んだ一幕の芝居、否、一本の映画のような見事なシーンだった。それに至るまでの経過を含め、原作及び脚本の妙と言わざるを得ない。しかも回想(再現)のシーンでありながら、それなりにサスペンスフルな展開など、脚本と監督の勝利と言っていい、観ていて興奮を禁じ得なかった演出だった。ラストの清々しさも見事だった。正直泣けた(^^ゞ 主要キャストが大見得を切るエンドロールも、芝居特有の"カーテンコール"のようで心にしみた(^^ゞ

近年の邦画におけるサスペンスは、昨年観賞した『ドールハウス』といい、『近畿地方のある場所について』といい、『火喰い鳥を、喰う』といい、"不条理こそが美徳"とでもいいたげな展開ばかりで、いささか食傷気味だったが、同じサスオペンスフルな内容でも、今回の『木挽町のあだ討ち』ような作品ならば大歓迎! 世の中自体が"不条理"に苛まれた混沌とした状況だけに、せめて映画という"娯楽"くらいは、観ていて幸せな気持ちになれるモノでないと……ね(^^ゞ
徳光和夫氏の言及によると、レスラーは“アウトロー”の集団故、みな私生活では優しいそうだが、実際彼らもレスラーの如く実は“ナイスガイ”であることが。
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