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前回記事で、俳優のマインドセット……相手への「リスペクト」についてお話ししました。

 

 

 

……このお話をしていて、ある僕の「体験」を思い出したんです。

今日は、そのエピソードをご紹介しながら、演技をするに当たっての大切な考え方についてお話ししてみたいと思います!!

 

 

 

 

  タイタニック号沈没で囁かれる、陰謀論

 

遡ること、もう10年近く前。

僕は、とあるミュージカル作品に出演していました。

 

そこで演じていた役が、「タイタニック号の船長さん」だったんですね。

レオナルド・ディカプリオ主演の映画『タイタニック』にも登場した、あの白髭の船長エドワード・スミスさんです。

 

 

当時、痩せ型だった僕は。

口の中に含み綿を入れ、インナーも重ね着して太らせ、ヒゲも白く染めて、その役に挑みました。

 

 

タイタニック号船長エドワード・スミスの肖像

▲エドワード・スミスさん。

 

 

……それにしても。

この道40年の大ベテランだったスミス船長が、なぜ、氷山を避けられなかったのでしょう……?

 

この疑問に対し。

皆さんは、タイタニック号が「わざと」事故に遭ったという疑惑が、まことしやかに語られているのをご存知ですか?

 

 

 

と、いうわけで。

ここでちょっと、都市伝説的な話に逸れます。

 

 

 

実は、タイタニック号には、瓜二つの「オリンピック号」という豪華客船が存在しており。

どちらも、ホワイト・スター・ライン社が所有していました。

 

しかし。

オリンピック号は、その処女航海で、タグボート(曳船)を船尾に巻き込みそうになるという事故を起こしてしまいます。

 

さらにその後も、衝突など、1年も経たないうちに3度も事故を起こしてしまうんですね。

 

 

それによって、船の評判は失墜。

ホワイト・スター・ライン社は、多額の修理費と賠償金を抱えるハメになります。

 

 

そして、故障したオリンピック号は、北アイルランドの造船所に運ばれます。

そこでは、オリンピック号とそっくりな「タイタニック号」の造船が真っ最中でした……。

 

 

タイタニック号の船長エドワード・スミスの陰謀論

 

 

……さて。

ここで、ある事実が発覚します。

 

オリンピック号の事故で膨大な修理費と賠償金を抱えたホワイト・スター・ライン社は、タイタニック号に多額の保険金をかけていたそうなのです。

 

 

実際、タイタニック号が沈没した際、同社に多額の保険金が支払われ。

そこから22年もの間、ホワイト・スター・ライン社は経営を続けていたそうなんですね。

 

 

……さぁ。

 

これを機に、陰謀論が囁かれ始めます。

 

 

「タイタニック号沈没事故は、保険金目当てに仕組まれた『事件』だったのでは……?」

 

 

なんと。

資金繰りに困ったホワイト・スター・ライン社が、度重なる事故ですでに使い物にならなくなっていたオリンピック号と、造船中のタイタニック号をすり替え。

損傷したオリンピック号を、外見が瓜二つの「タイタニック号」と見せかけて船出させ、そのまま海に沈めてしまった。

 

そうすれば、莫大な保険金が支払われる上、傷ついたオリンピック号の処分もできるし。

その後は、新品のタイタニック号を「修理を終えたオリンピック号」として就航させれば、すべて解決する……。(実際に、オリンピック号はその後も20年以上、就航を続けていました)

 

 

そんな憶測が噂されるようになったのです。

 

 

こうした陰謀論の根拠として。

たとえば、タイタニック号に乗船するはずだった50名以上の要人たちが、直前になって一斉に乗船をキャンセルする(つまり、計画を知らされていた?)など、不可解な事実がいろいろ見つかっているそうなんですね。

 

 

 

……さてさて。

この話を信じるか否かはあなた次第として。

 

 

僕が出演したその舞台では、こうした陰謀論についても紹介されたものの、あくまでも「こんなウワサがあるよ」という程度で軽く触れられていたに過ぎず。

ストーリーにも、その陰謀論が直接絡むことはありませんでした。

 

劇中、タイタニック号沈没の場面もあったのですけれど。

観客にとっては、僕が演じたスミス船長がその陰謀を知っていたか否か、あるいは本当に陰謀があったのかどうかすらも、特に説明されない展開になっていました。

 

 

つまり。

僕は、船長がこの計画を「知っていた」と作ることもできたし、「そもそもそんな陰謀は存在しなかった」と、スルーすることもできたわけです。

 

 

困惑する女性、演技のペアダンス

▲陰謀論の設定は、役のバックグラウンドとして採用しても、無視しても、どっちでもOKよ。

 

 

  本能的にやってきた、目の挙動

 

……その、タイタニック号の沈没シーンで。

僕は、この舞台の主演を務められていたあるベテラン俳優さんから、とっても評価していただいたんですね。

 

 

 

「あのシーンの演技は最高だったな!!」

 

 

 

そして、その主演俳優さんは、こう続けました。

 

 

「何が最高だったかってさ……。

 

タイタニック号が氷山にぶつかって、『船が沈没する!』って聞かされた時。

 

毎回、君(僕=スミス船長)の目が一瞬キョドるんだよ!!

 

あんな細かい演技、観客はまったく気づかないよ!!」

 

 

 

……実は、目が「キョドる(挙動る)」のは、僕の無意識から出た演技だったので、自分ではよく分かっていませんでした。

ただ、確かに心当たりはあったんです。

 

 

実は。

僕のスミス船長の役作りでは、この「陰謀論」の一部を採用していました。

 

 

これは実際に、都市伝説好きな人たちの一部で囁かれている、ある「憶測」なんですけれど。

 

それは。

スミス船長に下された会社からの命令は、「氷山にぶつけて、船を損傷させろ」というところまでで、「沈没させろ」とは言われていなかった、という説です。

 

 

タイタニック号での仕事は、スミス船長にとって、引退前の最後の航海の予定だったんですね。

そんなスミス船長が、「沈没する」という命令を受け、自分や乗客の命の危険を懸けてまでその船に乗るでしょうか?

 

凍てつく大西洋のど真ん中で、船を「わざと沈没させる」というのは、ちょっと荒唐無稽すぎるな、と……。

 

 

でも。

このベテラン船長なら、「損傷させろ」という命令までなら聞けるんじゃないか? と、僕は推測したんです。

 

 

というのも。

なんと彼は、あのオリンピック号の船長でもあったんです。

 

オリンピック号が事故を起こした時のキャプテンもまた、スミス船長だったんですね。

 

 

そうした状況を踏まえ。

最後の航海で、保険金目的で船を「損傷」させようとしたのではないか?

しかしその損傷が思いの外激しく……タイタニック号は、「沈没」という悲劇的な運命を辿ってしまったのではないか?

 

 

僕は、そうした役作りを行いました。

 

 

だから。

船員から「もうダメです、沈没します!」と聞かされた時、相当大きなショックを受けたのではないかと考えていたんですね。

 

 

きっと、そうした役作りが。

僕の目の「キョドり(挙動)」を生み出していたんじゃないかと思うんです。

 

 

演技で困惑する女性のイラスト

 

 

  観客に気づかれない演技

 

その主演俳優さんは、さらにこうおっしゃいました。

 

 

「君のあの微妙な『キョドり(挙動)』の演技で、僕は、この船が『陰謀で沈められる』んだなって分かったんだよ。

それは、台本には書かれていないけれど、そう分かったんだ。

 

あんな、観客にも気づかれないような繊細な演技を、僕にしてくれるなんて……。

 

君のような俳優を待ってたよ。」

 

 

 

僕の役作りは、自分でも気づかないほどの微細な挙動として、相手役(主演俳優さん)に伝わっていたんですね。

この方は、それを受け取ってくださった。

 

 

「君のおかげで、僕の役が深まって。

そこからの演技が新しく生まれてきたんだ。」

 

 

そう言って、とても感謝してくださいました。

 

 

 

「観客に気づかれない演技」……。

 

 

 

僕の演技は、確かに、客席に直接届くものではなかったかもしれません。

 

でも、僕の挙動を受け取った主演俳優さんが、その種を開花させてくださり。

結果的に、何か「台本以上のもの」となって、観客に伝わったことと思います。

 

 

こうやって、演技は、相手と一緒に創っていく。

 

 

もし、僕が。

観客に向かって、「僕の演技を見て!」という気持ちで演技をしてしまっていたら、きっとこの花は咲かなかったでしょう。

 

 

僕はこの時、「相手のために演技をする」ということの本当の意味と、その喜びを知ったように感じました。

 

 

クローバーと夕焼け空

 

 

  演技は、ペアダンスと同じ


僕のワークショップの中で。

時々、受講生にお伝えすることがあります。

 

 

「演技は、ペアダンスと同じ。」

 

 

ペアダンスには、「リード(誘い)」「フォロー(応じ)」の役割分担があります。

 

社交ダンスや、ミュージカル好きなら宮廷の舞踏会なんかをイメージしてくだされば分かりやすいと思うのですが。

男女でペアとなって、主に男性がリード、女性がフォローという役割を担い、身体的コミュニケーションを通じてダンスを楽しみます。

 

 

ペアダンスを踊る男女

 

 

2人がペアを組み。

腕や身体が互いにぶつかり合わないよう、フレーム(上半身の姿勢)を保ち、感覚的なつながりを維持する。

 

 

リード役が、その微細な動きや体重移動で相手を導く。

 

リード役がくれた、その微細な動きや体重移動をを感じ取ったフォロー役は、それに柔軟に対応し、身体をヒラリと動かす。

観客は、その優雅さ、美しさに目を奪われます。

 

 

ここには、コミュニケーションが生まれています。

 

 

でも、もしかすると。

観客から見ていたら、リード役は何もせず、ただ相手を支えているだけに見えるかもしれませんね。

 

 

 

演技は、ペアダンスのリード役のようでいい。

 

観客の目を引こうとする必要もなく。

ただただ、相手が動けるように、感覚を合わせて繊細にリードをするだけ。

 

相手のためだけに、動く。

相手が優雅に見えれば、それでいい。

 

 

相手は、リード役が繊細に感覚を合わせてくれているほど、優雅に舞うことができます。

 

 

もし、リードが力を込めて強引に相手を「動かそう」としたら?

 

そんなことをしたら、フォロー側は、優雅に舞うどころか。

思わず身体にグッと力が入って、動けなくなってしまいますよね。

 

 

だから。

相手を強引に動かそうとするのではなく。

相手と感覚を合わせながら、力を抜いて、繊細にリードする。

 

ペアダンスも、演技も、同じです。

 

 

手を繋ぐ演技のイメージ

 

 

一方。

フォロー役も、相手の繊細なリードをつぶさにキャッチして瞬時に対応しなくてはなりませんから、決して身体を固めたり、自分勝手に動いていてはいけません。

 

楽に、柔らかく、相手を信頼して。

身体も心も、相手に預けるのです。

 

 

それには、相手への100%の信頼が必要です。

 

 

そうやって、相手を信頼し、身体も心も預けることができれば。

相手の微細な動きや体重移動に対し、瞬時に対応することができます。

 

 

相手の挙動を即座に受け取り、演技を対応させていくのと同じですね。

 

 

 

ただし。

ペアダンスの場合は、役割分担が決まっていますが。

演技では、自分がリード役にもなれば、フォロー役にもなる。

 

両方の役が瞬時に入れ替わったり、同時に行わなければいけません。

 

 

いずれにしても。

演技において、それだけ複雑な「ペアダンス」を踊ろうとしたら、2人の間には確固とした信頼関係が必要です。

そして、互いのリスペクトを、決して忘れてはいけませんね。

 

 

高齢夫婦が楽しそうにダンス

 

 

  良い演技は、感謝で終わる

 

先ほどの舞台の主演俳優さんが言ってくださったのは、こういうことなのです。

 

僕の微細な挙動が「リード」になって。

その方はそれを「フォロー」することで、美しく、力強く、優雅に舞うことができた、と。

 

 

でも、それは僕も同じです。

 

たまたまその瞬間は、僕がリード側になったのかもしれませんが。

僕もまた、他の場面ではその主演俳優さんのリードに従うことで、たくさん、たくさん助けていただき。

良い演技を引き出してもらったと感じています。

 

 

 

あの、タイタニック号沈没の場面……。

僕のリードを、心から信頼して受け取り、応じてくださったこの主演俳優さんには、本当に感謝でいっぱい。

 

お互いにペアダンスを踊らせていただけたのが、本当に嬉しかったですし。

またいつか、どこかで共演させていただけたらと、今も願っています。

 

 

 

こうやってできあがった演技は、相手への「感謝」で満たされます。

 

「ありがとう!」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます!」

 

これが、健全な演技のあり方であり、創作的なあり方だと思います。

 

 

観客が演技を鑑賞し楽しむ様子

▲感謝で創られた舞台は、人々を幸せにします。

 

 

  リスペクトを欠いたスター

 

信じられないことに。

相手に対して「もっとこうやって演じてくれよ」などと注文をつける俳優さんもいます。

 

僕は、数年前に出演していたある舞台(先ほどご紹介したのとは別の舞台です)で、そこで主演を務めていた某・元スター俳優さんに、そんな演技の注文をつけられました。

 

が、僕は即座に「無理です」とその要求をお断りしました。

 

 

「すみませんが、そういうことは演出家が同席しているリハーサルの場でおっしゃっていただけますか?」

 

 

きっと、そんな風に逆らう俳優に会ったことがなかったんでしょうね。

僕がそう伝えたら、一瞬、目をまん丸にして驚かれて。

そこから、目を釣り上げて「なんであなたは私の言うことを聞けないの!?」と食いつかれました……。

 

 

この方。

その後も、僕以外の俳優たちに、好き放題、自分がやりやすいように演技の注文をつけまくっていましたね。

ひどい時には、「ちょっと!  こうやってくれないと、私がやりにくいじゃない!」なんていう風に……。

 

そして、それを言われた俳優たちは。

みんな、そのスターさんに対して萎縮してしまっていて、演じていても「怒られないように」やっているのが丸見えの状態になっちゃっていました。

 

 

作品は、ぶち壊しです。

 

 

……実に恥ずかしいことです。

そんな行為は、俳優同士の信頼もリスペクトも欠いた行為であることに気づかなくてはいけません。

この方は、こうしたことを勉強せずに、スター俳優としてやってきてしまったんですね。

非常に残念です。

 

 

指さし演技の指示

 

 

  まとめ

 

……いかがでしたか?

 

今回は、僕が実際に体験したエピソードから、タイタニック号にまつわるちょっと怖い陰謀論までをお伝えしました。

 

最後はちょっと、後味の悪いお話しでしたね。

すみません。。。m(_ _)m

 

 

気を取り直して。

 

とにかく、お互いのリスペクトが何より大切。

そのためにも、ちゃんと相手を観察するといったような、演技の基礎技術は欠かせませんね。

 

 

これが両立した時。

演技は、感謝に溢れた、本当に楽しいものになるはずです。

 

 

カラフルな風船と笑顔の女性

 

 

 

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