連載性春小説  碧いラフレシアの花 -95ページ目

連載性春小説  碧いラフレシアの花

好きじゃない人と天国へ行くよりは


好きな人と地獄に行きたい


ある女の子の80年代

「そんなことないよ。」


TAKAがはっとしてあわてて言った。



「もともと乱人のバンドが有名で、俺のLのメジャーデビューの話がぽしゃって、それで一緒にやったんだ。乱人君の名前がなかったら動員はあんなになかった。」



乱人君はおじさんになってもそういう風に言ってくれるTAKAがなんとなくうれしかった。



「シングルとか共作したろ?」


TAKAがムキになって言った。


ムキになって励ましてくれる風なのが、なぜか変にうれしかった。



「いや、真帆さんは男を見る目があるんだよ。あんなに石ころみたいにいる中から原石を見つけられる。」


「男にだらしないだけだろう。」


「TAKAちゃん、昔処女だった・・とかのろけてたよね。」


「ははは・・・。どこの処女だかしらないが今じゃ下品なレディースコミックで亭主の下ネタ漫画描いてるけどね。」


TAKAが寂しそうに笑った。




「B・Bで音楽的に高かったのは俺と乱人だけだと思う。」


TAKAがきっぱり言った。


「俺は曲は描けたがベースは下手くそだった。乱人は曲も書けたし、ギターも上手いし、品がよくて女の子にうける顔をしていた。この人がいないと自分はダメだと思った。」


それから小声で「KENちゃんのことは友達として好きだった・・・。でもどうしても俺は売れたかった。KENちゃんがアル中になった時自分は実はほっとした・・。」と言った。


それから遠い目で合成樹脂枠に囲まれた昔の自分のポスターを見ながら


「それで真琴を入れたんだ。いい大義名分ができた。KENちゃんを首にできた。」とつぶやいた。



乱人君は何も言えなかった。



「真琴のおかげで売れた。KENちゃんには悪かったなぁ・・と思った。」


乱人君が電気ストーブを全開にした。


量販店で買った安物だったが新しくて銀色にピカピカ光っていた。



80年代のお化粧バンド時代のポスターは合成樹脂の水色の枠にはまって額縁に入っていた。



乱人君の暮らしぶりはバンド時代と特に変わらなかった。




変わったのはTAKAだけだった。




乱人君がイチゴ大福をTAKAに勧めた。



「あ、ありがとう。イチゴだー。大きいイチゴだー。」


TAKAが子供っぽくふざけた調子で食べながら言った。



乱人君は急に自分の人生が寂しくなった。





「TAKAちゃん。TAKAちゃんはイチゴ大福のイチゴなんだよ。メジャーデビューができたのはTAKAちゃんっていうイチゴがいたからだと思う。」


乱人君が昔を思い出しながらゆっくりとした口調で言った。





そして売れないころのそのイチゴにしゃぶりついたのがグルーピー時代の真帆だった。



その後2人は夫婦になったが、その夫婦喧嘩さえも今は金になるらしい・・・・。





「俺なんか喧嘩のネタになるような女も子供も金もなにもないよ。」



乱人君が寂しそうに笑った。








そう言った後何でTAKAは真帆さんと離婚しないんだろう・・・と乱人君は思った。


乱人君の安アパートの壁に額に入れて飾ってある昔のポスターをぼんやりと見ながら


「そうだね。自分も今後の身の振り方を考えなきゃね。」


というTAKAにあまり離婚の決意は見られなかった。




「真帆は編集部に踊らされている。出版業界のしがらみにはまっている。」


TAKAが続けた。


乱人君にはTAKAが妻をかばっているように思えた。



「俺は、独身だし、これから結婚もないと思うけど・・・。TAKAちゃんにはかーなりチョイスがあるんだと思うんだ。」


「チョイス・・あるかなぁ・・・?」


TAKAがのらりくらりと答えた。



「このポスター懐かしいね。」


TAKAがぼそっと言った。



「真帆さんとはバンドで売れなかった頃からの付き合いで長いよね。でももうドロドロしちゃったし、あの人前科もあるから・・その若い人とまた結婚して・・・。」乱人君が言った。


「え・・・、若い人と結婚してもう一回・・・おとーさんになれって?」


「そうそう、TAKAちゃん子煩悩だし、条件がいいんだから。」


「あー、なんかもう面倒臭い。」


TAKAが小声で言った。



「これから絵里奈が大きくなってあの最低漫画読んで、俺は嫌われるんだろうな。」


TAKAがぼやくように言った。


「絵里奈ちゃんとは会えてるの?」


「うん、会わせてもらってるという感じ。漫画の文句言うと会わせてもらえなくなる・・・。」


それからコタツの中の足を動かしながら


「あのマンガはひでえよ。岡山の田舎からアイドルでスカウトされてきて、同じ事務所のアイドル女に手を出して、大麻好きもバレて事務所も首になって、バンドを始める少年の物語だぞ。」とTAKAが嘆くように言った。


「いや、メインストーリーは真帆さんの人生なんでしょ?」乱人君が苦笑しながら言った。


「金髪にしたから事務所首になったっていう嘘つきの俺とか、葉っぱでスタジオ代がなくなってメンバーにたかる俺とか、最低だな、俺はー。」


「そういえば、そんなこともあったよね。でも真帆さん記憶力いいよね。」


「よく細部を覚えてやがる。あいつは超人かよっ!」


「TAKAちゃん、もう読まないほうがいいよ。」


乱人君が慰めるように笑って言った。






「絵里奈が学校でいじめられる・・・。」



TAKAが悲しそうに言った。