米軍基地から流れる汚染水問題~沖縄は世界に訴える。 | じろう丸の徒然日記

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私こと、じろう丸が、日常の出来事、思うことなどを、気まぐれに書き綴ります。

岩波書店から出ている月刊誌『世界 SEKAI』は、現在は6月号が発売中だが、今年(2024年)4月号に、かなり重大な記事が掲載されていた。
(もっとも、この雑誌に載っている記事はどれも重大な内容ばかりだが)

 
同号の『人権を取り戻す』と題した特集記事の一つ、『なぜ沖縄は国連に訴えるのか』というのが、それである。
筆者は、琉球大学客員研究員阿部藹(あべ・あい)さん
その記事によると――。

 
沖縄本島中部水源は、発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)によって汚染されており、その原因は、宜野湾市市民団体による周辺の井戸や河川の調査結果から在沖縄米軍基地にあることが明らかであるという。
それなのに、日本政府はいまだに基地に立ち入っての本格的な調査を実施できていない。

 
前述の調査結果宜野湾市市民団体によるものだが、米軍基地から有害物質が流れ出て周囲の水源を汚染しているという蓋然性(がいぜんせい)があり、人々が安全な水にアクセスできない状況があるにもかかわらず、日本政府「在日米軍との因果関係について確たることを申し上げることは困難」という立場を貫き、いまだにPFAS汚染源を特定する調査さえ実施していない。
この現状は、日本政府が、れっきとした日本国民である沖縄の人々が生きていくのに必要な「水に対する権利」を、保障する責任を怠っていることにほかならない。

 
昨年秋から沖縄本島地方では少雨が続いていて、ダムの貯水率が低下したため、沖縄県企業局はやむを得ず、前述の汚染の懸念により停止していた沖縄本島中部の水源からの取水を、2月11日、再開せざるを得なくなった。
それでも沖縄県企業局は、取水した水を、汚染されていない北部のダム水源の水と混ぜて希釈し、浄水場に入る段階で国の暫定指針値を下回るようにした上で、さらに浄水場では高機能活性炭処理PFAS濃度を可能な限り低減させる努力をしている。
担当者はその上で「PFASの測定や発表の頻度も増やしていきたい」と述べるなど、現場では最大限の対応をしていることが伝わってくる。

 
阿部藹さんは、記事の中で次のように日本政府を批判している。
(以下、引用)
(日本政府は)「台湾有事」への備えを声高に叫び、与那国島、宮古島、石垣島と自衛隊の基地を次々に建設する“勇ましさ”は誇示するものの、国民の健康に不可欠な安全な水を守るために行動する気概と力はないのだ。
(引用、終わり)
 
だが、そのような国の南西端で、現地の人々の目は日本という国を飛び越え、世界に向いているのだ。
 
米軍普天間基地がある宜野湾(ぎのわん)市には、「宜野湾ちゅら水会」というグループがあり、以前からPFAS汚染問題に取り組んでいる。前述の市民団体である。
昨年(2023年)7月に、「宜野湾ちゅら水会」メンバー4人が、スイス・ジュネーブで開催された「国連先住民族の権利に関する専門家機構(EMRIP)」の年次会議に参加し、沖縄米軍基地から派生するPFAS汚染問題の解決を訴えた。

 
もともと沖縄では約30年にわたって市民社会組織国連さまざまな組織に声を届けていて、国連人権システムを活用するノウハウが市民に蓄積されつつある。
「宜野湾ちゅら水会」の共同代表の町田直美さんたちPFAS汚染への早急な対応を求めて、米軍に申し入れをするにとどまらず、県、議会、そして政府に対し、文書の送付などを通じて要請活動を繰り返してきた。
だが、米軍日米両政府からの回答は一切無かった。日米地位協定の厚い壁が邪魔をしているのだ。
そこで、「宜野湾ちゅら水会」の人たちは、「米軍のみならず自国の政府も動かないのだから、次は国連の場で自分たちの訴えを聞いてもらおう」と決意したのだった。

 
そのときの様子を、昨年、『琉球新報』が伝えている。
 
「米軍は国連宣言の順守を」 宜野湾ちゅら水会、国連でPFAS汚染の解決を訴え声明(2023年07月19日)
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1749859.html
(リンク切れの場合はご容赦ください。)
 
阿部藹さんは、『世界 SEKAI』2024年4月号の記事の中で、この「宜野湾ちゅら水会」の行動に関して、次のように述べている。
(以下、引用)
 「ちゅら水会」のメンバーたちがメッセージに込めた「水に対する権利」の訴えは、国際人権法の観点からもきわめて適切な権利主張である。国際人権法は新しく生じたさまざまな課題を受け止め、新たに人権を確認しながら発展しており、「水に対する権利」もそうやって新しく確認されたものである。
 
 水資源の重要性が環境問題や水に関する国際会議などで認識されるようになり、さらに2000年頃に水道事業の民営化に反対するデモが世界各地で起きたことで水を人権の問題として捉える議論が活発になっていった。その結果、2010年に安全な飲用水に対する権利は国連総会決議によって人権として確認された。日本も批准している国際人権法の中でも重要な条約のひとつである「社会権規約」にその根拠があるとされており、日本政府には自国に住む人々に水に対する権利を保障する法的責任がある。
(引用、終わり)
 
このPFAS汚染問題は、沖縄の新聞ばかりではなく、『東京新聞』も報じていた。
私は『世界 SEKAI』4月号阿部藹さんのレポートを読むまで、この問題を知らなかった。不勉強を恥じ入るばかりである。

 
『東京新聞』
アメリカ本国では「既に浄化を終えた」PFAS汚染 在日米軍基地では調査を制限 日本政府はいつ住民を守るのか
(2024年2月4日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/307235
(リンク切れの場合はご容赦ください。)
 
さらにこの問題沖縄だけでなく、何と、東京都横須賀でも起きていた。
東京多摩地域水道水源の井戸が、やはりPFASで汚染されており、米軍横田基地汚染源として疑われているという。
横須賀市米軍基地には、排水からPFASを除去する装置があるのだが(つまり米軍基地から出る排水がPFASで汚染されているのは公然の事実なのだ)その装置市には内緒で稼働を止められていたのだという。
どちらの件もやはり『東京新聞』が報じている。

 
「結局、横田基地には触れちゃいけないという空気」PFAS汚染源の特定進まず 小池百合子知事も動かず(2023年10月18日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/284333
 
PFAS汚染 沖縄県ができた米軍基地への立ち入り調査、東京都はなぜできない? 対応を比べてみると…(2023年10月31日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/287197
 
PFAS除去設備、地元に知らせず稼働ストップ 横須賀の米海軍基地「検出値が安定」…でもデータ公表は拒否(2023年12月21日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/297400
(以上3点、リンク切れの場合はご容赦ください。)
 
上の『東京新聞』2023年10月18日31日の記事によれば、2020年4月に、沖縄PFASを含む泡消火剤の漏出事故が発生した際、環境補足協定に基づいて、普天間飛行場への初の立ち入り検査が実現していたのだ。
だがそれ以後は日米地位協定が優先され、日本側による立ち入り検査は拒否されるようになった、ということか。
環境補足協定では米軍側からの漏出事故発生の通報などを条件に、立ち入り調査の要請が可能になる。
ということは、米軍が漏出の事実を認めない場合は、日本側による基地への立ち入り検査拒絶されてしまうのだ。

 
(参考画像)
沖縄の普天間基地(普天間飛行場)】

(フリー画像:これこれさん https://www.photo-ac.com/profile/1738590
 
米軍基地の問題は、決して沖縄だけのものではないことを、私は痛感させられた。